スカイ・クロラ The Sky Crawlers : インタビュー
「バベル」でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされ、世界にその名を轟かせた演技派女優・菊地凛子の最新作は、やはり世界にその名を知られる日本のアニメーション界の雄・押井守の最新作「スカイ・クロラ」。これまで俳優の声優起用を積極的に行わなかった押井監督が、「彼女ならば」と主人公の草薙水素(クサナギ・スイト)役の声優として抜擢したのが菊地だ。そんな彼女に話を聞いた。(取材・文:編集部)
菊地凛子インタビュー
「見えない感情を言葉にのせていくことを大切にしました」
菊地が演じた草薙水素は、思春期の姿のまま永遠に生き続ける“キルドレ”と呼ばれる人々のひとり。かつてのエースパイロットで、今は基地司令官として他のキルドレたちが空に向かっていくのを見守っている立場だが、その胸中には様々な思いが渦巻いているというキャラクターだ。
――昨年「Genius Party」で短編アニメの声優は経験してますが、長編アニメは初めてですね。
「『Genius Party』の時はリアルな10代の女の子の役で、全く虚構ではありませんでした。ですが、今回は“大人にならない子供たち”というのが、どこまでリアルにやるべきなのか、どこまで抑えてやるべきなのか、正直最初はよくわからなくて、できるかどうか不安はありました」
――それでもやろうと思ったのは?
「押井さんがとても好きなので。作品もですけど、押井さんの言葉とかも好きなんです。今回も、押井さんが根拠もないのに『絶対大丈夫だから』と言ってくださって、肩を押していただいた感じです」
――押井監督は雑誌の対談で会われた時に菊地さんの起用を決めたそうですが、監督のその時の印象と実際に仕事をした印象は?
「意外ととてもキュートな方だなと。もっと厳しい方なのかなと思っていたのに、すごく物腰柔らかで。達観されているような、重みのあることもサラッとおっしゃる、とても尊敬できる方です。押井さんは空手をされていて、とても身体論を語るんですよ。しっかり立って、腰を据えて……という感じで(笑)。テクニカルなことはあまり言われないのですが、役者が感情で動けるほうに導いてくれて、実写向きな監督なんじゃないかと思います」
――スイトは外見は少女ですが、中身は他のどのキルドレよりも大人の女性です。少女でもあり、大人でもあるというアンバランスなキャラクターをどう捉えましたか?
「抱えているものがすごく複雑なんです。監督には『精神年齢35歳』と言われましたが、それでいて子供でもあって、責任のある立場にもあって……。ただ、彼女は新しく起こることに恐れや怖さを抱えていても、真ん中に芯があってそれらを受け入れている印象があります。怖くても目を背けず、しっかりと見て進んでいく。注射を打たれる時、針をグッと見て確かめるような感じの人だなと(笑)。そういうところを声でどう表現していくかというのは難しいところですが、大事にして演じました」
――監督からはスイトという人物について何か言われましたか?
「『映画を見終わったあとに、皆がなんとくスイトを思い出してくれるようになると嬉しい』とおっしゃっていました。スイトというキャラクターが皆に響いてくれればいいということだと思いますが、実際に私は彼女の生き方に共感しました。スイトは器用に見えて本当はすごく不器用な人で、私はそこが好きなんです。そういう意味では、見えない感情を言葉にのせていくことを大切にしました」
――押井監督はこの映画を若者たちに見てほしいと言ってますが、菊地さんも監督が想定している20代の若者です。この映画を見て感じることは?
「大人になるにつれて、気付かないうちに落としてきてしまっているもの、簡単に見過ごせちゃうものって、たくさんあると思うんです。映画って、見終わった後に振り返って、そうしたものをまた拾い直せることが出来るから好きなんですけど、『スカイ・クロラ』でも、そのとき自分が持っていた感情というものがフワッと思い起こされて……。単純に『明日から謙虚に生きよう』と思いましたし、そういうことも意識の持ち方ひとつだなって、すごく影響されました」
――キルドレというのは空で戦うことで生きている実感を得られる人たちですが、菊地さん自身が生きている実感を得られる瞬間というのは?
「やっぱり映画の現場にいる時ですね。むしろそちらのほうが本当なんじゃないかというくらい活き活きしてます」
※このインタビューの掲載期間は08年9月5日(金)までとなります