「没入し過ぎるとつまらなく感じ、引いてみればまずまず」ゾディアック shoz_さんの映画レビュー(感想・評価)
没入し過ぎるとつまらなく感じ、引いてみればまずまず
「セブン」に度肝を抜かれたフィンチャーフリークがこぞって言い放つ感想は「らしくない」とのことだが、映像的ホラー感の一切を欠いた作品後半の1時間(誰も死なないし手紙も届かないので若干地味)にこそこの作品の魅力があるのだと思う。
ジェイク・グレンホール扮するロバート・グレイスミスは原作の作者であり、事件の真実に最も近づく最重要人物であり、この映画の主人公でもある。一方ロバート・ダウニー・Jr(好き)扮するポール・エイブリーとマーク・ラファロ扮するデイヴ・トスキーが物語前半では主役級に脚光を浴びており、グレイスミスなんて「あ、居たの?」くらいの活躍。猟奇殺人、手紙、暗号など、観客を魅了する数々の出来事も同じく物語前半に起きるため印象深い。今までのフィンチャーっぽいし、見てて楽しい。フィンチャーフリークは万歳してたと思う。ってか、え、グレイスミス何やってんの?ジェイク・グレンホールの芝居地味じゃね?というのが私の感想。
ところがどっこい、エイブリーはあることをきっかけに新聞社を辞め、同時に映画からもフレームアウト、トスキーも謎の自作自演容疑をかけられ捜査から外される。そこからグレイスミスの逆襲。次第に取り憑かれたように事件を調べ始め、たった1人でどんどん真実に近づいていく。地味だけど、心配する妻ををシカトして事件を調べ続けちゃうところとか、子供を巻き込んで暗号解読し始めるところとかは狂気を感じる。ノンフィクションモノにありがちな「暇」みたいな展開ではなくて、グレイスミスのメンタルの変化が見事に描かれている。ひとかわ剥けましたねフィンチャーさん。
誰も死なないし手紙もしばらく届かないから展開としては地味なんだけど、グレイスミスの狂気と徐々につまびらかになる真実に、興奮する。でもやっぱり映画としては地味だし、2.5時間でいう上映時間も異常なので眠い。人にはオススメできない。俺は好きだけど。
あと観客にミスディレクションしまくる地下室のヤバイシーンがあるんだけど、ここはサービスカットっていうか往年のフィンチャー節が炸裂しましたねありがとうって感じ。
「映画だしね」みたいな気持ちで観てると面白いんだけどあんまり没入し過ぎると「昔の警察ザル過ぎるだろ…」みたいな気持ちになってきて気がきじゃなくなるのでオススメしません。ムカついてきます。普通にさっさと捕まえろよ…と。筆跡と指紋だけが科学ではありませんよ。