ウェイトレス おいしい人生のつくりかた : 映画評論・批評
2007年11月13日更新
2007年11月17日よりシャンテシネほかにてロードショー
人生をそれなりに謳歌している人々の強さ
一芸に秀でるものは全てに秀でているはずなのに、人生がうまくいかないパイ作り名人のウェイトレス。予定外の妊娠や産婦人科医との不倫などなど、迷走する人生を夫のせいにしているヒロインは、まさに優柔不断。だが、平面的な構図や脱力系のトーンや会話はそんな彼女の悩みを描くのにピッタリ。しかも、そうして描かれるユルい笑いのなかに、決して勝ち組とはいえない人生をそれなりに謳歌している人々の強さが浮かびあがる。
とはいえ、そこは自身も母親である女性監督シェリー。ほんの少しの勇気を出せずに生きてきたヒロインの背中を後押しするのが“母性”というのはストレートすぎる気もするが、同時にこの作品はものすごいお伽話でもあったりするわけで。結局、女にはリアルな強さもファンタジーも必要だという真実がそのへんにチラリ?
ヒロインのオリジナルパイも、女心をくすぐる代物。次々と映しだされるパイを見ながら、パイ生地はもう少し艶があったほうが美味しそうなのになどと考えながらも、帰りはどこでお茶するかを考えずにいられないのも事実。でも、この作品のいちばんの魅力は、ヒロインを温かく見守るダイナーの老オーナー。充実した人生には、粋な先輩が必要なのよね。
(杉谷伸子)