レミーのおいしいレストラン : 映画評論・批評
2007年7月17日更新
2007年7月28日より日劇3ほかにてロードショー
CGのタブーに挑み、リッチな質感を表現した傑作
かつてCG界では、食事シーンは一種のタブーとなっていた。それは食品のシズル感(おいしそうな質感)表現や、弾力、粘性、破断、接触判定などの物理的要素が複雑すぎて、技術的に非常に難しかったからである。それに最初に挑戦したのは「シュレック2」だったが、あくまでも一要素に過ぎなかった。だが本作は、全編に渡って料理がテーマとなっており、普通なら確実にボツにされる企画だろう。でもそれを見事にやり遂げ、とんでもない傑作に仕上げてしまう所に、今のピクサーのスゴさがある。正直、本当に生唾を飲み込む場面もあったほどだ。味覚や食感を、言葉に頼らず視覚的表現だけで表すシーンもあり、日本のグルメコミックが見習う点も多いと言える。
また料理の描写だけでなく、画面全体の雰囲気も魅力だ。ウォームカラーやタッチライトを活かした照明、浅い被写界深度、優雅に舞うようなカメラワークなど、まるで一流の撮影監督(例えばビットリオ・ストラーロとか)が撮ったような、リッチな質感の映像になっている。これはCGが、現実世界をシミュレーションすることから一歩踏み出し、“映画として”優れたツールになり得たことを意味している。
“映画として”という意味ではストーリーも見事だ。アメリカアニメで定番の「父と息子の和解」というテーマはキッチリおさえつつ、フランス映画的な恋の要素も入れて、一流のコメディに仕上げている。最後に登場する「正しい評論とはどうあるべきか」というメッセージは耳が痛いが。
(大口孝之)