劇場公開日 2007年7月28日

レミーのおいしいレストラン : インタビュー

2007年7月20日更新

天才クリエイター集団のピクサーでも、監督・脚本をたったひとりでこなしてしまうクリエイターはブラッド・バード監督しかいない。学生時代から群を抜いた才能を発揮しながらも、歯に衣着せぬ物言いと不器用な処世術のせいで、長い不遇時代を余儀なくされたバード監督だが、「Mr.インクレディブル」の大ヒットでついに脚光を浴びることになった。新作「レミーのおいしいレストラン」は、ピクサーのスティーブ・ジョブスCEO(当時)から直々の依頼を受けて、監督を引き継いだ異例の作品だ。長年に渡って頓挫していた映画企画をわずか18カ月の製作期間で傑作に仕上げてしまったバード監督に、大いに語ってもらった。(小西未来)

ブラッド・バード監督インタビュー
「いい物語こそが映画を傑作にするんだ」

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――嫌われ者のネズミを主人公にした映画なんて、よく作ろうと思いましたよね。

「ははは。この映画のコンセプト自体は、ぼくが思いついたものではないんだ。ヤン・ピンカバ(短編映画『ゲーリーじいさんのチェス』) という監督が企画開発を行っていたもので、ぼくがピクサーにやってきた00年から彼はすでに準備を進めていたんだよ。ぼく自身、ヤンのコンセプトの大ファンだった。ネズミとレストランの厨房という組み合わせは、素晴らしいストーリーに必要な葛藤の宝庫と言ってもいいからね。でも、監督を引き継ぐことになって、『誰もが嫌っている生き物についての映画をやらなきゃいけない』ってことに、いまさらながら気がついた。ヤンが担当していたときの解決法は、ネズミをネズミとして描写しない、ということだった。ネズミは2本脚で歩くという設定で、みんなまるでミッキー・マウスのようなルックスをしていた。言っておくけど、ぼくはミッキー・マウスに反感を抱いているわけじゃないよ。ただ、奴は身長が1メートル近くもあって、赤い半ズボンを履いて、一軒家に暮らし、犬を飼っている。ぼくが知っているネズミとはずいぶん違った生活をしているっていうだけで」

「Mr.インクレディブル」の次に本作を手掛けた ブラッド・バード監督
「Mr.インクレディブル」の次に本作を手掛けた ブラッド・バード監督

――(笑)

「ぼくはネズミを人間っぽく描くという解決法は間違いだと考えた。ぼくがこの企画に加わったときには、すでに2本脚で動くように設計されたネズミのCGモデルが完成していた。それを、4本脚で歩くように作り直させるのは、複雑かつ、高くつく作業だったけれど、ぼくは踏み切った。なぜなら、これは人間の世界に入っていくネズミの物語だからだ。それまで4本脚で歩いていたレミーが、自らの意志で2本脚で歩くようになる。そのプロセスを、観客にもきちんと見せたかった。本物のネズミを研究して、しっぽを長くしたり、鼻をひくひくする動作を取り入れたから、初めはびっくりするかもしれない。でも、ストーリーが進むにしたがって、ネズミたちがアウトサイダーとして辛い生活を強いられていることを理解して、共感を抱くようになる。やがて、かつて嫌悪していた動物に同情している自分に気づき、観客は複雑な心境になる、という仕組みなんだ」

――あなたはピンチヒッターとして急遽監督を引き継いだわけですが、「レミーのおいしいレストラン」に惹かれた最大の魅力はなんだったんですか?

監督は作業が進むにつれ、レミーに共感していった
監督は作業が進むにつれ、レミーに共感していった

「正直なところ、最初はこの作品と強い繋がりは感じなかった。ぼくが思いついたアイデアではないし、フランスについても、料理についても、ネズミについてだって、なんにも知らなかった。だから、あらゆることについて急いで勉強しなければならかなったほどだ。でも、作業が進むにしたがって、ぼく自身の感情が物語と結びつくようになっていることに気がついた。とくに、レミーに強い共感を覚えた。自己表現をしたくてたまらないのに、それが許されない存在っていう面でね。そのフラストレーションはものすごく理解できる。自分が愛することをさせてもらえない辛さも、身に染みて理解している。ぼくはこのストーリー設定で共感できる場所を発見し、ハートに従って物語を組み立てていった。結局、2つの台詞を残して、脚本をすべて書き換えてしまったよ」

>>「ブラッド・バード監督、大いに語る(2)」に続く

インタビュー2 ~ブラッド・バード監督、大いに語る(2)
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