傷だらけの男たち : インタビュー
「インファナル・アフェア」が香港の興行記録を塗り替え、そのハリウッド・リメイク版「ディパーテッド」が本年度アカデミー賞作品賞を受賞したアンドリュー・ラウ監督。このほど、「インファナル・アフェア」チーム(アンドリュー・ラウ&アラン・マック監督、フェリックス・チョン脚本、トニー・レオン主演)が再結集した新作「傷だらけの男たち」のプロモーションで来日したラウ監督に話を聞いた。(編集部)
アンドリュー・ラウ監督インタビュー
「今後も国際的に通じる作品を撮っていきたいですね」
「インファナル・アフェア」に続きトニー・レオンを主演に描く「傷だらけの男たち」の企画は、トニー主演作をもう一度撮ろうというところから企画が生まれていったそうだが?
「はっきりと約束したわけではないですが、『インファナル~』がとても充実して出来たので『いい脚本があれば、また一緒にやろう』という暗黙の了解のようなものがありました。ですから、こうなったのは自然の流れでしたね。今回は脚本執筆の段階でも、彼から意見や提案もたくさんありました」
もうひとりの主演・金城武とアンドリュー・ラウ監督が仕事をするのは、ラウ監督が撮影監督として参加した「恋する惑星」以来。
「初めて彼を撮影したときも才能を感じましたが、『恋する惑星』から13年が経ち、彼もより成熟しました。脚本に対する理解も深く、役柄の把握もしっかりと出来るようになって、当時とは別人のようです。演技にも深みが増したと思います」
「インファナル~」は、マフィアに潜入した警察官と警察に潜入したマフィアという2人の男の対立と苦悩を描いたものだった。「傷だらけの男たち」もトニー・レオン演じる刑事と金城武演じる私立探偵という2人の男の物語で、彼らはそれぞれ暗い過去を背負っている。苦悩する男たちの対立という点において、2作には共通するテーマがあるように思う。
「男というものは、社会に出ていく過程で必ず様々なプレッシャーにさらされます。俗っぽい表現になりますが、いろいろな苦労を経験するわけです。そういったことは私自身も実感することがあって、映画作りのテーマに反映されているのかもしれません」
では、監督自身が最も苦労したこととは?
「『インファナル~』を撮る前のことですね。自分の製作会社を立ち上げたのですが、ちょうど香港映画界がどん底だった時期で、周囲に笑われました。『何故いまどき製作会社を立ち上げるんだ』と。『インファナル~』にしても『こんな映画、儲かるはずがない。下手をすると破産するぞ』と言われましたが、私は黙々と仕事をこなしていきました。あの時期はとてもつらいものでした」
結果として「インファナル~」は香港の興行史に残る大ヒットを記録。脚本を綿密に練りこみ、事前に準備を万端にしてから撮影に臨んだ同作のスタイルは、当時の香港映画界では珍しかったそうだが。
「以前の香港映画界は、『近道を走って映画を撮る』とも言われていましたが、今ではもう、そのような作り方は通用しません。今では誰もがまず、いい脚本であるかを吟味し、それから撮影に入るというスタイルが定着しました。それはとても良いことだと思います」
そんな“香港映画界を変えた男”とでも言うべきラウ監督は、「インファナル~」の成功後、日本で「頭文字D THE MOVIE」を撮影し、韓国映画「デイジー」をオランダロケで撮り上げ、リチャード・ギア主演「消えた天使」(8月4日公開)でハリウッドデビューも飾った。
「どこで映画を撮っても実は同じで、あまり国による違いはないと思っています。来年は中国本土で映画を撮る予定もありますし、様々なマーケットに映画を提供するために、今後も国際的に通じる映画を撮っていきたいですね」
世界を視野に映画作りに励むラウ監督にとって、「インファナル~」のハリウッド・リメイク版「ディパーテッド」がアカデミー賞を獲得したことは、当然メリットになった。ちなみに「傷だらけの男たち」も、既にハリウッド・リメイクが決定済みだ。
「『ディパーテッド』の出来に関しては賛否両論ですが、少なくともアメリカ国内では興行成績もよく、オスカーも獲りました。おかげで、それまで『インファナル~』を知らなかった人たちが、『ディパーテッド』のオリジナルであると知って観てくれるようになりました。我々としても、リメイク作がこのようないい結果を出すことは光栄です。また、現実的な話をすれば、彼らはかなりの高額でリメイク権を買ってくれるので、収入も増えましたしね(笑)」