マグノリア : 映画評論・批評
2000年2月15日更新
2000年2月26日より丸の内ルーブルほか全国松竹・東急系にてにてロードショー
想像を絶する「天からの救い」を見よ
エイミー・マンは歌う。
「最初の内は思ってた。望んだものは手に入ると。でも苦しみは終わらない。そんなことを続けてるかぎり」
これは負け犬たちの物語である。なんでも知っているクイズの天才少年は人生という難問に答えを出せない。富と名声を手に入れた老人は、だが子供と和解するというだけのことができない。世界中の金を集めても、愛を買うことだけはできないのだ。「ブギーナイツ」のポール・トーマス・アンダーソン監督は、十二人のダメ男、ダメ女たちの物語を精巧に組みあげる。技巧のかぎりを尽くし、笑わせて泣かせる。どんな人でも負け犬どれかの中には自分の似姿を見つけ、歯をくいしばるだろう。「ブギーナイツ」には、それでも「どんな人間にもひとつくらいは取り柄がある」というメッセージがあった。「マグノリア」では「ひとつくらい取り柄があったとしても、所詮あんたは負け犬さ」だろうか。逃げ道などない。いや、そうだろうか?
エイミー・マンは歌う。
「わたしを救って。ピーターパンのように。スーパーマンのように」
そう、救いは天からやってくる。スーパーマンのように、天から舞い降りてぼくらを救ってくれるのだ。「マグノリア」を見おわったときには、あなたもきっと信じるだろう。ぼくら負け犬にもいつかスーパーマンがやってくることを。
(柳下毅一郎)