「21世紀の分断された現代にこそ観るべき映画です」ボーン・コレクター あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
21世紀の分断された現代にこそ観るべき映画です
最近の映画のようで、本作には在りし日のWTC のツインタワーが写されています
20世紀が終わろうという1999年の作品
遺伝子が人の運命を決めるって説
僕は信じない
(中略)
運命は自分が切り開くってことさ
(中略)
親の運命と君の人生は別
君は優秀な刑事になれる
才能がある
それを捨てるな
主人公リンカーンの台詞です
そのときヒロインのアメリアの目から涙がポロポロこぼれます
才能があるはIt's a giftと英語で言っています
つまり神からの贈り物
無駄にする事は罰があたることなのです
ホラー、スリラー、サスペンスの映画
確かにそうです
それが大変に面白い映画です
でもそれは本当は主題ではなかったのだと思います
なぜ主人公は黒人なのか?
なぜリンカーンという名前なのか?
なぜ彼は四肢が麻痺している存在なのか?
なぜマルコムX を演じたデンゼル・ワシントンが主演なのか?
なぜヒロインは白人でアメリアという名前なのか?
なぜ彼女の父は自殺しているのか
なぜ彼女は女性でしかも小柄で美しいのか?
これらの意味することを考えつめたところに、本作の本当のテーマがあると思います
劇中の物語のように、わざとわかるように様々に証拠を残してあるのです
人種も性別も関係ない
有能さや人間性だけが人間の優劣を決める
それが本作のテーマなのです
共通の目的の為に前向きに努力し、互いに協力して、その有能さを発揮する
そこに本当の尊敬しあえる人間関係があるのです
だから、ハワード警部のような軽蔑すべき人間
セルマのように動けなくても、哀れみや蔑みでなく、一人の人間として普通に扱い、距離感も普通に接する女性
アメリアの身体だけの関係の彼氏
こういった人物が登場するのです
リンカーンとは奴隷解放宣言をした大統領と同じ名前
その名前の主人公は四肢が麻痺して自由には動けません
しかし、彼の精神と知性は自由に活発に大胆に活動しているのです
つまりライムは、黒人が現代でもなお差別的な立場に置かれている現状を象徴しているのです
アメリアとはアメリカのことです
自信を失い、何と戦えばよいのか見失った存在です
この異常な連続殺人事件を通じて、二人は互いに認め合うのです
人種も性別も関係ない
人間として尊敬しあえる関係になるのです
いや、ラストで手を重ねる二人には男女の感情が芽生えています
尊敬しあえる異性だからこそ、恋愛の対象になるのです
身体だけの関係の昔の彼氏のことはもうすっかり過去のことになり忘れ去られているのはもちろんのことです
エンドロールに流れる主題歌の歌詞を引用します
「誇り高く強く生きよ」と
そう教えて来たこの国
「勝利を得るために闘え」と
くじけることなど思いもしなかった
闘う相手はどこに?
私は夢に見放された男
顔を変えて、名を変えても
負け犬には誰も目もくれない
あきらめないで
わたしたちが味方
あきらめないで
何もかも空しく思えても
あきらめないないで
どこかにあなたの場所がある
心安らぐ場所が
寄りかかって
心配し過ぎないで
すべてうまくいく
苦しみにぶつかったら
いつでも戻ってこの腕の中に
あきらめないで
お願い、あきらめないで
ここにはもう居られない
これ以上耐えられない
またあの橋に行ってみよう
暗い川面をながめるために
どんなことが起ころうと
この先に何があろうと
川は静かに流れ続ける
見知らぬ街に移り
住みついてみよう
仕事を求めて群がる男たち
誰からも見放された男たち
あきらめないないで
同じ想いの人がいる
あきらめないないで
あなたはすばらしい人よ
あきらめないで
人生は誰にもつらいのだから
あきらめないで
どこかにあなたの場所がある
心のやすらぎを得られる場所が
長く引用しました
しかしこの主題歌の歌詞こそ、人種差別で疎外された有色人種
とりわけ黒人対してのメッセージであったことが理解できると思います
人種差別で分断されたアメリカを統合するための祈りであったのです
エンドロールは空撮によるクリスマスのNYの夜景です
必ずアメリカは人種差別のない国になる
いつの日にか、来るべき21世紀には必ずそうなってみせる
そのような祈りと誓いの締めくくりです
しかし21世紀も20年も過ぎ去ったのに分断は逆に悪化してしまったのではないのでしょうか?
複雑な想いがぐるぐるとモヤモヤと残ります
名作です
今こそ観るべき映画だと思います