マン・オン・ザ・ムーン : 映画評論・批評
2000年5月29日更新
2000年6月10日より日劇ほか全国東宝洋画系にてにてロードショー
数奇な生涯を送った天才コメディアンをジム・キャリーが熱演!
「早すぎた天才」と言う人があれば、「不愉快なだけの男」という人もいる。物議を醸しながら35歳で世を去ったコメディ界の問題児、アンディ・カフマンである。
とにかくたいへんな男だったようだ。人を食った彼の芸には常識もへったくれもない。観客を騙くらかし、不愉快にさせるのはお手のもの。どこまでが演技でどこまでが本気なのかわからず、観客は戸惑うことになる。
こうした芸に命をかけた男の熱さを、ジム・キャリーが入魂の演技で見せる。自分の存在を虚構のなかに押し込んだ挙げ句、癌にかかっても信じてもらえなかった男の哀しさ。作り手のアンディへの愛が、あふれんばかりだ。
とはいえ正直言うと映画を見て、アンディの芸に戸惑った観客と同じような感覚におそわれたのも事実だ。どうしてアンディは、こんな奇天烈なユーモアをそこまで暴走させるのか。そこがまったくわからないのだ。
しかし、わからんやっちゃ、と思わせることもまた、作り手の意図なのかもしれない。最後まで手の内を見せなかったアンディを、勝手に解釈して観客に押しつけるのを潔しとしなかったのだろう。こうまで愛されたアンディは、きっと成仏できたに違いない。
(若林ゆり)