「.」黒い家 瀬雨伊府 琴さんの映画レビュー(感想・評価)
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自宅にておさらいを兼ねた何度目かの鑑賞。オープニングの向日葵は、終盤に服の柄として再登場し、黄色が視覚的な意味附けを担っている。音楽やSEも効果的に使われており、終始落ち着か無げで情緒不安定な“菰田(小坂)重徳”の西村雅彦が写るとFAXの送受信音が鳴り響く。鑑賞後暫くはこの機械音と黄色がトラウマ化しそうで、これらは原作には無い加味された要素。他にも地方都市の退廃的な雰囲気(雨曝し剥き出しの錆附いた重機や工場等)と快晴なのに濁った色調の空等、不穏で不気味な印象が全篇を覆い尽くし支配している。70/100点。
・登場する“昭和生命 北陸支店”での遣り取りは、緊迫した本筋とは相対を成す様に意図してコミカルに描かれており、メリハリが効いていた。犯人と対峙するのが最後迄、臆病で大人しそうな人ばかりと云う対比もユニークである(唯一頼りとなる異様な存在感を放つこわもて、小林薫の“三善茂”呆気無くやられてしまうのも皮肉である)。亦、ガジェットとして、ボウリングや水泳が効果的に用いられていた。そして何より本作は“菰田幸子”を演じる大竹しのぶの狂演と呼ぶに相応しい怪演により成立している。
・確か初鑑賞時は、読んでから観た憶えがあるが、そう云えば原作者の貴志祐介も“京都支社の営業マン”として出演しており、石橋蓮司の“葛西好夫”と科白迄交わしている。他にも“出前持ち”役や“松井刑事”役等、キャスト陣には意外な人達が顔を出している。
・ほぼ原作通り忠実に映像化されており、ややもすると判り辛くなりそうな原作に登場する保険業界の裏噺やトリビアも整理され、巧く盛り込まれている。幽霊を始めとしたオカルトや超常的な事象に頼らない怖さを演出しているのもポイントで、そのテのが苦手な人にもお薦めし易い。惜しむらくは、最大のツイスターである真犯人があっさり判明してしまう事で、もう少し粘り、勿体をつけ、サスペンスフルに盛り上げても良かったのではないだろうか。
・鑑賞日:2017年3月30日(木)