「私のための本だ」善き人のためのソナタ sow_miyaさんの映画レビュー(感想・評価)
私のための本だ
ベルリンの壁崩壊から、もうすぐ36年。そして、この映画がつくられてもうすぐ20年経つ。
現代にいる我々は、この話を、「冷戦時代の産物」で終わらせることができるだろうか。
イデオロギーはともかくとして、監視と粛正で存続させないと維持できない組織に、真っ当な正義も未来もあるはずがない。けれども、費用対効果を度外視して、あえてそういう組織を求めたがっている人々のメンタリティは、どうなっているのだろうかと思わされる。
今作は、遠い他国の関係ない人々の話ではない。自分の持つ正義とはズレた他者に対して、徹底的に不寛容な意識を抱いてしまう(もちろん自分も含めた)人々の話である。
もちろん、今作はフィクションではあるけれど、崇高なものに触れた魂と、肉欲に溺れた生理的欲求との相剋において、主人公の中では芸術の崇高さが勝利する展開に救われる思いがする。けれども、映画でもそうだったように、現実の中では、必ずしもそういう結末になるとは限らない。
それでもやっぱり、人として生まれたからには、より美しいものを求める気持ちは、決して忘れたくないと思わされるラストシーンだった。
映画から少し離れるかもしれないが、映画で観る限り、東ドイツが、尋問や監視の記録文書を全て保管していたことに驚きを禁じ得ない。
日本では、敗戦時の文書廃棄どころではなく、今も文書改竄や廃棄の問題で、情報公開のあり方が問われ続けている中、過去の記録がたどれるようにしておくことは、とても大切なことだと思わされる。
この映画は名作だと思います。
このレビューの題名の言葉は、あまりにも心に残る言葉でした。
昨日、「アイム・スティル・ヒア」を見たのですが、以前なら、どこかよその国のお話、という感覚だったのですが、今回は「日本でもあり得るかもしれない」と、ふと思ってしまいました。
日本に限らないのかもしれませんが、最近の不寛容な風潮にはとても恐ろしいものがあります。

