「騒乱の中にある静寂に注目。」ユナイテッド93 すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
騒乱の中にある静寂に注目。
〇作品全体
「9.11」を俯瞰すると、アメリカだけでなく世界が擾乱の中で戸惑い続けた一日だったことは疑いようがない。ただ、その一日を経験した当事者の視点に立つと、擾乱の中には静寂の時間がある。安らぎの時間ではなく、あまりにも衝撃的なことが起こることによって、皆が言葉を失ってできる静寂だ。
最初に生まれる静寂はワールドトレードセンターに一機目が突っ込んだ、というニュースを見るシーン。様々な場所で、それぞれの役割をこなしていた人物たちが一斉にテレビ中継の映像に注視する。テレビの音だけが流れる空間が空港の管制室で、オペレーター室で、空軍で。それぞれが受けた衝撃を騒乱の場から静寂の場へと一気に変えることによって異様な緊張感を作り出す。
二機目が突っ込むシーンも印象的だ。管制塔から直接目の当たりにした人物たちがトレードセンターにくぎ付けになる。画面は激突した飛行機ではなく、人物たちを映す。飛行機そのものではなくて一転に集中する目線にカメラを向ける演出に息を呑んだ。
そしてなにより注目したくなるのはユナイテッド93便での静寂。
ハイジャックに対抗しようとする直前のシーン。状況を打破しなければならないと心に熱を灯す乗客側と、その不穏な空気に呑まれそうなるハイジャック側。それぞれが、それぞれの大切なものに祈る姿があった。乗客側は家族に祈る。ハイジャック側はただ神に祈る。ユナイテッド93便にいるもの皆が同じ行為をしているのに、完全な決裂にも見える、この演出のアイデアが素晴らしい。
どちらかにわかりやすい役割を与えて差別化するのではなく、双方の登場人物の根底に触れさせようとするカット割り、俳優の芝居だった。
最期は騒乱で幕を閉じるが、ブラックアウトした画面が一気に静寂を浴びせかけてくる。緊張感に飲み込まれた客席側にも浴びせる「衝撃の静寂」。劇場で見ていたらそう感じたのだろうなと、思った。
〇カメラワークとか
・画面ブレ、ピンボケのカットが印象的。ハイジャック犯の声を無線音声から見つけるカットや、ユナイテッド93便の中で情報が行きかうシーン。あいまいな情報が確定したものに変わる瞬間に使われていた。