「深く胸を穿つ」トゥモロー・ワールド REXさんの映画レビュー(感想・評価)
深く胸を穿つ
少子化どころか女性が子供を妊娠しなくなってしまった近未来。
世界最年少は18歳、とても貴重な存在であるのに、その子が殺害されてしまったというニュースが駆け巡る、絶望的なオープニング。
緩やかに死ぬまでなすすべもなく、命のカウントダウンを皆で数えているような閉塞感。
テロや紛争がはびこり、世界が壊滅にまっしぐらに突き進むなか、英国だけが辛うじて秩序を保っている。
だがそんな英国にも移民が押し寄せ、うかうかしてはいられない。
主人公のクライブ・オーウェン演じるセオがカフェで遭遇する爆弾テロは、リアル過ぎて恐ろしい。
官僚でもあるセオは、反政府組織に属している元妻のジュリアン(ジュリアン・ムーア)にあるものを託される。
それは「妊娠した少女」キー。
大変な奇跡であるにも関わらず、手放しで喜べる状況にはならない。
政府に伝えれば、明るいニュースを振り撒いてもらうことができて、世界は希望に満ちるはず--そんな単純な図式にはならないのも、また人間の愚かさなのだ。
キーを政府との交渉素材にしようと、反政府組織で内部分裂が起きてしまい、セオとキーは逃げざるを得なくなる。
セオとキーを匿い、殺される友人をマイケル・ケインが好演。
彼はクラシックな物をこよなく愛していたが、それも無惨に破壊された。
人間はその無知のせいで、いくつ価値あるものを破壊してきたのだろう。
セオとキーは、存在すらあやふやなヒューマン・プロジェクトという組織をめざして、逃避行を続ける。
はっきりいってセオは、強くもないし特別なスキルがあるわけでもない。
だがキーがその本能で信頼できると断言する誠実さを、クライブ・オーウェンがしっかりと演じきる。
ヨレヨレでヨロヨロ、そんな彼が突き動かされる、生まれなかった命への思い。
ラスト、素晴らしいワンカットの戦闘シーンの喧騒ののち、人類最後の子供がもたらした奇跡が深く深く胸を穿つ。
赤ちゃんというのは、脆弱なのに、なんて強いんだろう。
未来への希望を抱いたままジュリアンの元へ逝ったセオの姿に、深い余韻が残る。