「監督のセンスには素晴らしいものを感じるが、作品としては荒削り」スワロウテイル Fate number.9さんの映画レビュー(感想・評価)
監督のセンスには素晴らしいものを感じるが、作品としては荒削り
「隠れた名作」と言わせるには、作品として荒削りな部分が多いのが惜しい。
日本語、中国語、英語を混在させて作り上げた「円都」という雑多で多国籍な街に存在感は感じるが、物語の展開上、あまり「架空の世界」である必然性を感じないし、それほど個性的な世界でもない(「ブレードランナー」や「アキラ」のような、終末観+オリエンタルテイストという世界観は公開当時でも既にありがちで新鮮味が無い)。また一歩外へ出た「都心とのギャップ」があまりにも大きく、都心と円都との「中間地点」が存在しないような違和感を強く感じた。せっかくの架空世界も、こうした作り込みの甘さが気になる。
時折見られる詩的で繊細な表現には、監督の感受性の鋭さが見て取れるが、穿った見方をすると、その「計算されたあざとさ」が鼻につく時がある(胸元のイモ虫とか、夢の象徴として魔都に翻るアゲハ蝶とか、ゴミ捨て場を楽園のように表現する、等)。「ちょっと象徴的でカッコ良さげなセリフやシーンを用意した」という感覚以上のものではなく、イマイチ底が浅い。
主役は登場人物全員であり、彼らの「群像劇=生き様」こそが作品の核心だと思うが、登場人物が多すぎるせいで展開にまとまりが無く、「テープを巡る経緯」と「グリコのサクセスストーリーと挫折」の二大イベントがストーリー展開上うまくリンクしていないため、全体として見るとイマイチ何が言いたいのか分からなくなっており、テーマにピントが合っていない印象。
ラストも中途半端で後味が悪い終わり方。そもそもテープがどういう素性のもので、またどうして他人の腹の中に入れておかなければならないのかも不明のまま。大事なものならそんな保存の仕方をせず、もっと違う保管場所があるだろうと突っ込んでしまう。ランがどういう組織の人間かも説明無し。全体的に「詰め込みすぎ」という印象が強く、あっても無くてもいいイベントやキャラが多すぎて、作品としてのまとまりが無くなっている。
Charaを始め、各役者さんの魅力を最大限に引き出す監督の能力や美的センスには素晴らしいものを感じるだけに、作品として荒削りな所が勿体ない。
