「【”全ての移民を受け入れる“円都”で生きる人達。そしてMy Way。"今作は、全ての”境界”をぶち破って前を向いて生きようとする移民の若者達を描いた、現代の諸問題を見越したが如き逸品なのである。】」スワロウテイル NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”全ての移民を受け入れる“円都”で生きる人達。そしてMy Way。"今作は、全ての”境界”をぶち破って前を向いて生きようとする移民の若者達を描いた、現代の諸問題を見越したが如き逸品なのである。】
■一応、粗筋
母を亡くした少女(伊藤歩)は、“円都”に、フラフラとやって来る。そこには、胸に蝶のタトゥーのある娼婦・グリコ(Chara)達が住んでいて、彼女を優しく受け入れ、グリコは少女に”アゲハ”と言う名を付けて上げる。
グリコは歌手を目指して“円都”にやってきた“円盗”で、アゲハは同じ円盗のフェイホン(三上博史)たちの何でも屋で働き始める。
ある日、グリコの元客、須藤(塩見三省!ちょっと、ビックリ)が嫌がるグリコに手を出そうとして、ビルの窓から突き落とされて死ぬ。皆で、須藤の死体を埋めた時に男の身体から出て来た、1本のカセットテープに仕込まれた磁気を使い、フェイホン達は1000円を一万円に偽造し、金を稼いでいき、自分達の夢であるライブハウスを開業するのである。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・今作が、今から約30年も前の作品という事に驚く。しかも、岩井俊二監督のオリジナル脚本である。
この作品が、仮に今秋、新作として公開されたとしたら、私は”現代の時流を捉えた映画である。”として、話題になると思う。
・それくらい、この映画で描かれている内容は、現代に起こっている事を暗喩している。
1.行き場のない移民たち
2.日中米の争いと融和
3.国家権力の横暴
⇒だが、この映画の中では“円都”で生きる若者達(含む、子供達)は、他者に対して対価を一切求めずに、優しい。
そして、我が道を生きようとする、前向きな姿勢を持っている。
・今作を支えるのは、今や邦画を代表する多くの俳優さん達であり、今や日本の音楽界の大御所となった小林武史の音楽であり、早逝した篠田昇が写し取るボンヤリと明るい日の光に照らされた美しき世界である。
・そんな彼らの生きる未来を妨害しようとする”警察”に代表される権力者も描かれる。例えば偽札作りで警察に囚われ、拷問の末に亡くなるフェイホンは、獄の中で死の直前まで”My Way"を歌っていた、と警官が喋っているシーンがある。
だが、それでも、”アゲハ”や、リャンキ(江口洋介)達は、前向きに生きようとするのである。例え、それが不明瞭な未来であっても、そこには絶望は、ない。希望があるのみなのである。
<今作は、全ての”境界”をぶち破って前を向いて生きようとする移民の若者達を描いた、30年前に現代の諸問題を岩井俊二監督が見越したが如き、逸品なのである。今更書くのも何だが、岩井俊二監督の凄さに圧倒される作品でもある。>
■最近、チョイ思う事。
・「サブスタンス」じゃないけれど、私はアンチエイジングは否定しないが、年を重ねるって良いな、と思えるように最近なった。休日の朝はチャリンコ漕いでるから分かるのだが、ヤッパリ体力は確実に落ちている。けれども、例えば今作を20年前に観ていたら、内容が理解できたかは自信が無い。勿論今でも、理解しきれた訳ではないが・・。
マア、何が言いたいかと言うと、年を重ねるのも悪くないな、と最近思えるようになったという事が言いたいのである。許容範囲が広がったというか、視点が変わったというか。
”他人に対して優しい、後期オジサンニ、サウイフモノニ ワタシハナリタイ。”