「神がやらねど街がやる。 超豪華キャストでおくる地獄の『スタンド・バイ・ミー』。」スリーパーズ たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
神がやらねど街がやる。 超豪華キャストでおくる地獄の『スタンド・バイ・ミー』。
ニューヨークのヘルズ・キッチンを舞台に描かれる、かつて少年院で地獄のような性的暴行を受けていた4人の男たちによる復讐悲劇。
性暴力の被害を受けた4人組の1人である検事補、マイケル・サリヴァンを演じるのは『セブン』『12モンキーズ』の、名優ブラッド・ピット。
少年たちの良き友人でもある神父、ボビー・カリロを演じるのは『ゴッドファーザーPART Ⅱ』『タクシードライバー』の、レジェンド俳優ロバート・デ・ニーロ。
アルコール中毒の弁護士、ダニー・スナイダーを演じるのは『クレイマー、クレイマー』『レインマン』の、レジェンド俳優ダスティン・ホフマン。
少年院を仕切る邪悪な看守、ショーン・ノークスを演じるのは『13日の金曜日』『アポロ13』の、名優ケヴィン・ベーコン。
ニューヨーク出身の巨匠マーティン・スコセッシは幼少時代ギャングと神父に憧れており、どちらの道に進むか悩んだ挙句神父を志すことにしたという。その理由は、偉そうにしているギャングも神父の前ではペコペコするから。
60年代後半から81年まで、ギャングやマフィアの跋扈する無法地帯からヤッピーが仕切る高級住宅街へと変貌を遂げつつあるヘルズ・キッチンで繰り広げられるこの復讐劇を観れば、スコセッシがなぜ正反対とも思えるその2つの職業に、特に神父の方へ強く憧れたのかがわかるだろう。
『レインマン』(1988)でオスカーを獲得した名匠バリー・レヴィンソンが監督を務める本作。疎遠になった、あるいは命を落としたかつての親友との思い出を物書きになった主人公が回想する、身も蓋も無い言い方をすれば犯罪版『スタンド・バイ・ミー』(1986)みたいな映画である。
ただ、本作はジュブナイルもの、監獄もの、ギャングもの、法廷劇と、物語が進行するにつれコロコロとその色が変わってゆく点がとてもユニーク。テンポ感も程よく、147分という比較的長めの尺でありながら全くダレる事がない。
少年への苛烈な性的虐待シーンは目を覆いたくなるほど陰惨であり、こういった描写に抵抗感を示す観客もいる事だろうとは思う。ただ、非常に見応えのある作品であることは確かだし、後半の展開はスリリングでエンタメ的にも楽しめる。一見する価値のある良作であることは声を大にして言っておきたい。
レヴィンソンの地に足のついた演出と、『グッドフェローズ』(1990)の撮影監督ミヒャエル・バウハウスによる、これぞマフィア映画だと言いたくなるような堂々とした画面作り、そして巨匠ジョン・ウィリアムズによりスコア。どれをとっても卒がない。若々しさはないが、クラシカルな佇まいがとてもキマっている映画だと思う。
ただ、脚本には正直首を捻りたくなる点が多い。
一番大きな問題点だと思うのは、ブラピ演じるマイケルの計画を事前に明かしてしまっていること。憎き宿敵ノークスを射殺したジョンとトーマス。法廷での裁判で、検事として現れたのはかつての親友マイケルだった…。一体なぜマイケルがジョンとトーマスを有罪に追い込むような立ち回りを見せるのか、そこを伏せておけばミステリー的な要素が生まれ、観客の物語に対する興味もより強まった事だろう。敵だと思っていたマイケルの計画が、最後の最後で明らかになる。絶対に映画としてはこっちの方が面白くなったと思うのだが…。
もう一つ気になったのは、ノークスを一番最初に殺してしまったこと。ケヴィン・ベーコンの怪演も相俟って、死ぬほど憎らしい悪魔として我々の前に姿を現したこのノークス。観客としては当然、クライマックスでの彼と4人との対決を期待してしまう。
そんな彼を第三幕の開始と同時に退場させてしまうというのは勿体なさすぎ。しかもノークス殺害は突発的なものであり、特に長年の計画が身を結んだという訳でもない。なんかこう、受けた虐待に対しての仕返しがあっさりしすぎていていまいち腑に落ちなかった。
ジョンとトーマスが射殺するのは別の看守ということにしておいて、ノークスへの復讐は一番最後に、しかも一番苛烈な方法で行った方が観客の溜飲はより下がったことだろう。
ブラピ、ベーコン、デ・ニーロ、ダスティン・ホフマンという、とんでもないキャスト陣が集結した本作。さらに、ブラピの幼少時代を演じているのは夭折した名優ブラッド・レンフロなのだというから驚かされる。この再集結不可能な超豪華キャストを見るだけでもこの作品を鑑賞する価値は十分にあるのだが、ここでも気になる点が。
せっかくデ・ニーロとホフマン、二大巨頭が共演しているのにも拘らずこの2人の共演シーンはほとんどなし。それならせめてブラピとデ・ニーロの共演シーンをもっと見せてくれても良さそうなものなのだがそれもほとんどない。なんかこういうところにすごく勿体なさを感じてしまう。
もっとも、デ・ニーロとホフマンはレヴィンソン監督の次回作『ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ』(1997)という作品で共演しているようなので、この2人の絡みはそこで観られるのかも。未見なので詳しいことは分かりませんが…。
このデ・ニーロやホフマンの演じたキャラの掘り下げの薄さも気になるところである。特にホフマンが演じた弁護士なんて、ただの酔っ払い以上の役割無いじゃん!!
デ・ニーロ演じる神父の、義侠心と信仰に板挟みになる心境なんてとても興味深いものがある。そこをもっとクローズアップしてみせることも出来たかと思うとちと残念である。
結局神父は彼らへの友情と何もしてやれなかった後悔とが重なり、神の教えに背く行為をしてしまう。気になるのは、ここで彼がもし嘘の供述をしなかった場合、確かにジョンとトーマスは刑務所にぶち込まれたかもしれないが、もしそうなっていればその後路地裏で彼らが殺されるなんていう悲劇は起こらなかったはず。結果として神父が神に背いた結果、2人の命は失われてしまった。そのことに対し、果たして神父はどう思っているのか?やはり法廷で嘘をついたことを悔やんでいるのだろうか?
そこが明らかにされていない点が少々ノイズになってしまった。そこを描けとまでは言わないが、せめてクライマックスでの登場人物のその後が語られるシーンで、神父についても言及すべきだったように思う。
まぁあとはヒロインの扱い方がヘナチョコすぎることも気になる。こんな微妙なキャラにするくらいなら最初から出てこない方が良かったんじゃ…?
なんて、なんか思っていた以上に色々と突っ込んでしまったけど、とても楽しんで鑑賞しました。楽しんだからこそ、ちょっと色々とモヤモヤしてしまったということです。
ベーコンが出演していたり、少年への性的虐待がキーになっていたりと、イーストウッド監督作品『ミスティック・リバー』(2003)を思い出す作品でした。イーストウッドはもしかしたら本作を参考にしたのかも。
細かいことは気になるが、十分現代でも鑑賞に耐え得る作品。割と顧みられることのない作品のような気がするが、若い映画ファンにこそ観て欲しい🌟
…この映画は原作者ロレンツォ・カルカテラの実話に即しているらしい。公開時、どこまでが真実なのか論争を呼んだらしいのだが、これ絶対に内容盛ってると思う😅いくらなんでもこれが100%実話というのはねぇ。
『アメリカン・フィクション』(2023)という嘘の自伝がトラブルを招くみたいな映画があるようなのだが、なんかそれみたいだな…。