「ユダヤ人問題を抉り出す圧倒的描写力」戦場のピアニスト Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
ユダヤ人問題を抉り出す圧倒的描写力
総合80点 ( ストーリー:80点|キャスト:85点|演出:100点|ビジュアル:90点|音楽:65点 )
ナチス・ドイツ占領下の街で、ユダヤ人たちはどのような生活をおくっていたのか。それを描く演出が実に残酷で恐怖と絶望に満ちている。
突然家から引きずり出され、殴られ、殺され、通りを歩けば殴られ、歳をとっていれば殺される。ナチスのユダヤ人に対する人権の蹂躙は如何様だったのか、その模様が生々しいほどに現実的に描かれる。そしてユダヤ人居留地に押し込められたユダヤ人は、暴力と飢えに怯えながら、怒りと誇りをその身に隠して生き残りのためにあらゆる努力をする。最後にはただ食べ物を求めて細い生命を繋ぐだけの日々は、まるで汚れてやせ細った鼠のよう。
美術も演出も演技も、これほどに当時の状況を再現できた質の高い作品もそうはない。アカデミー賞三部門・カンヌ映画祭パルムドール受賞も納得の力作。ただ悲惨だ悲惨だと話にばかり聞くユダヤ人問題を、眼で捉えこういうものなのだと感じとるという意味では最適の一本に違いない。
惜しむらくは、多くのユダヤ人の扱いの描写を直接的にしておきながら、どこかに列車に乗せられ連れて行かれた彼の家族の末路がはっきりと描かれないことである。主人公が列車に乗る列からはじき出されて「命を救ってやった」と言われたことから想像するしかない。
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