キング 罪の王 : 映画評論・批評
2006年11月14日更新
2006年11月18日よりアミューズCQNほかにてロードショー
宿命のドラマに大国批判も交え、奥が深い
父親に捨てられ、拒絶された息子が、父親の家庭を破滅させる話だが、復讐が動機の犯罪ドラマというより、神話や聖書に見るような宿命のドラマというテイストが強い。そのテイストを決定しているのが、主演のガエル・ガルシア・ベルナルのクールな演技だ。
ガエル扮するエルビスは、海軍を除隊し、父親を訪ねてメキシコ国境に近いテキサスのコープス・クリスティという町にやってくる。この町の名前は“キリストの死体”転じて“キリストが生きた証”という意味。さらに父親の職業が牧師なのだから、いやでも運命的な何かを感じさせる設定だ。そしてエルビスの謎めいた態度。父親に邪険に拒絶されても怒ったり嘆いたりせず、たんたんとこの町で暮らし、静かに微笑みながら罪の限りを尽くして父親の家庭を地獄に突き落としていくのだ。ガエルのあの美しい瞳に罪の意識はちらりとも見えない。それがミステリアスで、父親に過去を償わせるため神に使わされた天使なのか、あるいは冷酷な悪魔の使いなのか、どちらとも受け取れるのが面白い。メキシコ人の母を持つ私生児がアメリカ人の父親に拒絶される構図には、大国主義で弱者を切り捨てるアメリカへの批判も見えて、奥が深い映画だ。
(森山京子)