ティアーズ・オブ・ザ・サン : 映画評論・批評
2003年10月15日更新
2003年10月15日より日劇1ほか全国東宝洋画系にてロードショー
複雑な余韻を残す映画
「内政干渉になるので、アメリカ人だけを救え」という命令を受けたウォーターズ大尉が、虐殺を目の当たりにして苦悩し、軍に背いて難民をも助けようとする。確かに、単純な英雄物語ではなく、悪い話ではない。が、イラク戦争の虚飾が問題にされる今、素直に感動できないのも事実。独裁国家で虐げられている人々を救うためなら、攻撃して人を殺してもいいのか? ウォーターズ大尉が呟く「自分がしたことがいいことなのか、悪いことなのか、わからない」という言葉が、重く響く。
ただ、虐殺を生々しく描写し、敵側を徹底して悪に描いたうえ、最後に軍の英断を見せる展開は、いかにもアメリカ的で感心しない。しかし、戦闘の後、女たちが敵の死体から武器を取って戦士となる様などもさりげなく映し、憎しみの連鎖を示す気配りはされている。
いずれにせよ、先の見えない宗教や民族の対立が世界各地で起こっている今、この映画が投げかける問題は、決して他人事ではない。事実、日本政府はアメリカに追従し、なし崩し的にイラクへの自衛隊派遣を進めている。そればかりか、日常で頻発している暴力事件に対しても、あまりにも無関心だ。複雑な余韻を残す映画だが、だからこそ見ておきたい。
(山口直樹)