単騎、千里を走る。 : 映画評論・批評
2006年1月24日更新
2006年1月28日より日劇2ほか全国東宝系にてにてロードショー
高倉健は中国の大地にただ佇んでいるだけで絵になる
健さん演じる寡黙な親父が、病床の息子に変わって中国に渡り息子のライフワークである仮面劇を撮りに行く。ハッキリ言えば、展開が読める話である。息子との確執、それがあっても尚、中国へ単身向かう過程は物足りなく、チャン・イーモウ作品の中でも脚本は大甘だ。それでも1時間48分の間、スクリーンに惹きつけられてしまう魅力的な要素が2つある。1つは、中国の大地にただ佇んでいるだけでバツグンに絵になる高倉健、そのものの存在。そしてもう1つは、超シンプルな話だからこそ際立つ、チャン監督の手腕だ。
アキ・カウリスマキ監督作のようなとぼけた笑いが好きな筆者にとって、チャン監督の笑いのセンスには唸らされることが多かった。本作品もしかり。特に健さんと、実は日本語があまり理解出来ていない中国人ガイドとの、噛み合ってないようでなぜか噛み合っている2人の掛け合いは絶妙だ。泣かせる話の合間にこうした細かなクスッと笑えるエピソードを散りばめながら、言葉も国境も越えて友情を育んでいく人々の心の機微を描いていく。
何より、日本人が抱く寡黙で硬派な健さんのイメージを生かしつつ、見知らぬ土地で積極的に人々と触れ合う健さんという今までにない表情を引き出している。最近の日本映画界ではそのビッグネームゆえ、どう扱ったらいいのか手をこまねいている感もあったが、本人にとっても観客にとっても、新たな高倉健と出会える作品に仕上がったと思う。
(中山治美)