「最高の騙しあいの大傑作」スティング Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
最高の騙しあいの大傑作
総合:100点
ストーリー: 100
キャスト: 95
演出: 95
ビジュアル: 85
音楽: 85
直接物語を解説していませんが、少しだけ物語の内容をほのめかす記述があります。映画を見たことがない人は注意してください。
生き生きとした登場人物の設定、ニューマンとレッドフォードをはじめとする俳優たちの少しコミカルだが緊迫の演技、シカゴの古い街なみのセットと衣装。これらをジョップリンのラグタイムのピアノ曲を背景に、弾むように軽く物語が進んでいく。
特に物語は秀逸。詐欺師の話だからカモとなる人を騙すのだが、だんだんと誰が誰を騙しているのかすらわからなくなる。いったい映画の中で何度の騙しが行われただろうか。詐欺師のはずのレッドフォードでさえも、詐欺で稼いだばかりの3000ドルをイカサマのルーレットであっさり騙し取られるのだ(ディーラーがそっと机の下のボタンを押している)。列車の中でニューマンが演じるカードのイカサマ技術は、何度見直してみてもわからないほどの卓越したものである。
そして実は騙されるカモの行く末を眺めていたはずの視聴者こそが騙されていたという意外な結末。カモを引っ掛けるための準備が映画の中で進められていて、それを視聴者は見ていたはず。だが実は視聴者を騙すために、画面に映っていないところでも周到に準備が進められていたことがわかり、騙されたことがわかっても「ああ、ここまでされてしまったら仕方ない」と潔く負けを認めてしまう。
そもそも詐欺で重要なのは、詐欺本番だけでなくその後始末をいかにつけるかということ。その意味で最後までこの映画は手抜かりがなかった。騙された被害者たちも脛に傷を持つ悪人ばかりなので、見終わった後に不快感が残ることもない。
刑事にギャングに殺し屋からFBIまで、休むことなく次々に出てくる人物たち。その中には目標となるカモもいれば、排除すべき障害や降りかかる災難もいる。詐欺師たちは最初に仕掛けを考えながらも、臨機応変に状況の変化に対応して、素早くそして意外な方法で軌道修正をしていく様子がまた見ものである。どんなに準備を周到に進めても、相手が自分の予想通りに動いてくれるとは限らない。だが彼らはたとえ何が起きても、それすら計画のうちに入っているかのごとく柔軟に適応していく。結局勝負に勝つのは勝負に全力を尽くすものではなく、勝負をする前にも最高の努力と準備をしたほうなのだ。
私は特にポール・ニューマンの演技が特に素晴らしいと思った。しかし映画はいくつもの賞を獲っているのに、彼は今回アカデミー賞にノミネートもされていないというのはちょっと驚きでした。
普段のレッドフォードはあまりに爽やかでかっこいい正義漢のような美味しい役ばかりやっていて、個人的にはあまり好きではない。だが、この映画のレッドフォードはたいしたもの。警察・殺し屋と常に誰かに追われる心休まる時もない緊迫感の中、それでも逃げるためにまた計画のために走り回る姿は、時に少し哀愁を漂わせつつ小気味よい。