劇場公開日 2006年11月25日

「夢の世界の支配者。」パプリカ レントさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5夢の世界の支配者。

2023年4月30日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル、VOD

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天才科学者時田が開発したサイコセラピーマシンDCミニ。その装置は他人の夢の中に侵入できる画期的な発明だった。しかし、このマシーンにはそれ以上の能力が備わっていた。
装着を繰り返した人間は覚醒したままでも他人の夢の中に侵入でき、その意識下にほかの夢を植え付けることもできるという。
現実社会を悲観し夢の世界こそけして侵されない聖域と誇大妄想を抱いた黒幕の理事長はこのDCミニによる自身の世界への侵食を阻止して逆にこれを利用し夢の世界の支配を目論む。
現実世界では不可能でも夢の世界では支配者になれると考えたのだろうか。

原作は1993年から連載された小説。いま見ると他人の意識下に自分の夢を埋め込むとか、夢から醒めたと思ったらまだ夢の中だったとか、「インセプション」の元ネタに使われたのかも。
十代の頃にハマった筒井康隆作品。フロイトやユングの夢分析なんかは彼の小説で知ったくらい夢は彼の小説に度々モチーフとして使われていたように思う。
本作の原作は読んでないけど、とらわれたパプリカが皮膚の下に手を突っ込まれて身体をまさぐられるシーンは筒井氏のスラップスティック小説の一場面を思い出す。

今となっては「ザ・セル」とか「インセプション」みたいな他人の意識や夢に侵入するという作品が多く作られているが執筆された時期を考えるとやはり筒井氏の先見性には目を見張るものがある。

黒幕である理事長の口からはなにかと「支配」とか「テロ」なんて言葉が出てくる。テロを警戒する者、それはテロによって脅かされる体制の側の人間である。
テロの危険性を声高に叫びながら実は自分の野望のためにテロを起こしていたという矛盾。ありもしない他国からの侵略を警戒して戦争に突き進む為政者の姿を彷彿とさせる。

夢と現実の境界線が失われたようなクライマックス、DCミニの影響が大きくなって世界中の人々が覚醒したまま同じ夢を共有してしまったがために現実と夢が混在したような状況になったのだろうが、そうなる危険性をセリフでもいいから伏線として描いておいて欲しかった。
確かにアナフィラキシーで装置を装着しなくても敦子が夢の侵食を受けたというくだりはあったけど、世界中の人間までがいきなりそうなるのはちょっと飛躍しすぎでは。観客もあの展開にいまいちついてこれなかったのではないだろうか。
あと、敦子が理事長を夢ごと吸い込んで解決してしまうあたりもいまいちわからなかった。原作は読んでみようと思う。

映像はさすがに今監督作品だけに素晴らしい。筒井作品独特のシュールリアリスティックな世界観を表現するにはやはりアニメーションでなければ難しいだろう。実写化されたものは「時かけ」以外ろくなものがなかった気がする。

レント