「知らぬ間に咲いている道端の花」誰も知らない everglazeさんの映画レビュー(感想・評価)
知らぬ間に咲いている道端の花
どこからともなく飛んで来た種から芽が出て、いつの間にか咲くものもあれば摘み取られるものもある、野花のような子供達。
温室で大事に育てられた花とは違うけれど、その生命力は逞しく純粋で美しい。
平穏だけれど静かに喪失感に蝕まれていく「誰も知らない」子供達の世界が淡々と描かれていました。
一見優しく楽しいこの母親、子供の人数を偽る以外に何が問題なのだろうと最初は思うのですが(もちろんトランクは有り得ないけれど)、物語が進むにつれ、長男長女が家事をこなして母親の面倒を見ているような家庭であることが分かります。母親の夕飯を心配する息子。明と母親の会話が完全に逆転していました。自分の子供からのSOSに、まるでひと事のように答えるけい子は、たまにお土産を持って遊びに来るおばさんといった感じでした。そんな「母親」のおままごとに嬉しそうに付き合う子供達。子供の健気な寛大さと愛情深さが、状況の深刻さを良くも悪くも和らげていました。
冷静に妹弟の面倒を見る明の「保護者ぶり」は大人顔負けです。彼らが寂しがらないようにとお年玉を偽る優しく賢い兄も弱冠12歳。学校に行けず同世代の健全な友人にも恵まれず、家計のやりくりに疲労困憊し、食料と水の調達に明け暮れて、自暴自棄になっていく彼を責める気には全くなれません。
大家、コンビニ店員、野球監督。
一体どの大人が然るべき対応を取るのだろう?!とモヤモヤしました。既に15年前の作品となりましたが、今でもこんなに我関せずかな…と悲しくなります。少しお節介な大人は居た方が社会のためかも知れません。
紗希が親に福島家について相談しないのだろうかと不思議でしたが、毎朝通学のふりをして外出し、援交も躊躇わない彼女は、家庭でも幸せではないのでしょう。
子供達の捨てられた世界は、異臭が伝わってくるほど悲劇的であるにも関わらず、最後までなんだかファンタジーのような非現実感がありました。子供ならではの楽しむ才能に彩られ、また紗希のように進学しても(恐らく)家にも学校にも居場所がないような子供にとっては安らぎの場であるようでした。
久しぶりに家の外へ出れて、太陽を浴び、はしゃぎ回る茂。お買い物ですら新鮮で楽しい。兄弟4人で公園で遊ぶ。外で元気に遊べることが子供にとってどれだけ自然で幸せなことか…。
花から種を摘むシーンで、誰か捨ててったんじゃない?と言う京子に、あ〜かわいそうだね、とさらりと答えるゆき。自分も憐れんだ花と同じだと気付いてしまったでしょうか。
トランクで家に来て、トランクで去った妹。
明は飛行機を見る度に、幼く死んだ妹の真っ直ぐな視線を思い出すのかも知れませんね…。