誰も知らない : 映画評論・批評
2004年8月17日更新
2004年8月7日よりシネカノン有楽町ほかにてロードショー
監督の志の高さが素直に伝わってくる
マイケル・ムーア監督「華氏911」のパルムドール受賞で沸いた今年のカンヌ国際映画祭。筆者の心の中のパルムドールは圧倒的に「誰も知らない」だ。ニュース映像の寄せ集め「華氏911」、「花様年華」の二番煎じ「2046」ら他のコンペ作品と比較し、作品の質もさることながら、チャレンジ精神に溢れ、監督自身がさらに上を目指そうと高い志で製作していることが素直に伝わってきたのは本作品だった。約1年かけて子供たちの成長を追った、丁寧な撮影も好感大。是枝監督がこれまで目指してきた、ドキュメンタリーとドラマの狭間を行く映画作りの集大成である。
是枝監督の社会を見る視点も新鮮だった。本作品は、88年に実際に起こった「西巣鴨子供4人置き去り事件」をモチーフにしている。当時、無責任な母親を叱責する報道が乱立した中、是枝監督が気に留めたのは「お兄ちゃんは優しかった」という子供たちの証言。そこから、世間から見れば悲惨としか思えない子供たちだけの暮らしの中にも、幸せな時間が流れていたことをイメージし、本作品へと繋がったという。先の「自己責任」問題しかり、とかく我々は多勢の意見に流されがちだ。そんな社会において、ふと立ち止まり、様々な角度から物事を見る大切さを、改めて本作品が教えてくれた。
(中山治美)