シン・レッド・ラインのレビュー・感想・評価
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マリックの真髄ここに極まる!
テレンス・マリック20年振りの監督復帰作となった1998年の作品。
同時期に公開された「プライベート・ライアン」に観客も話題も持っていかれ、オスカーでも完敗。
しかししかし、非常に奥深い作品である。
背景となっているのは、第二次大戦下のガダルカナル島でのアメリカ軍と日本軍の激戦。
リアルで派手な戦場シーンとか兵士たちの友情とか愛国心とか、そんなありきたりな戦争映画ではない。
大自然の中で繰り広げられる争いを通じて、戦争の愚かさ、醜さ、人間の弱さ、狂気を浮き彫りにする。
それらと対比する大自然の何と美しい事!
余りにも残酷な神の仕打ちとしか言いようがない。
詩的な映像、美しい音楽、人間の存在と神への問いかけ…。
「ツリー・オブ・ライフ」にも通じるマリックの真髄。
「2001年宇宙の旅」がSF映画孤高の作品なら、「シン・レッド・ライン」は戦争映画孤高の作品。
久し振りに見ても新鮮さに溢れている。
戦争映画ではなく、戦場を舞台にした思索の探求
総合:65点
ストーリー: 55
キャスト: 70
演出: 70
ビジュアル: 80
音楽: 70
最初はちょっと退屈な映画だった。戦争映画なのに、戦争をしている緊迫感が薄い。銃撃の音や爆発音でうるさいはずの戦場なのに、何故か静謐な感じを受ける。目の前で生命体であった物の体が吹き飛ばされ肉が分離し命が消えつつあるのに、それが実際に起きている事とも思えない。現実を離れ幽体離脱でもして第三者の目から俯瞰しているかのような、しっとりと落ち着いた神々しさすら覚える視線で物事が流れ進んでいく。背景を美しく撮影し、自分の参加している殺し合いを、まるで他人事のように離れて見守っている。だが本当の戦争ってこんなもんじゃないだろうと思った。
だが何となくこの長い作品を延々と見ているうちに不思議な感じがしてくる。自分が社会に生き組織に属する人間であることを忘れ、自分自身は何者か、人類とは、生物とはという問いを、戦場の中に探索しているかのような気分になってくるのである。調べてみるとテレンス・マリック監督はハーバード・オックスフォード大学で哲学を学んでいたそうで、映画の題材の中にそのような主題が含まれているのかもしれない。これは戦争映画なのではなく、戦場を舞台にした哲学・詩・文学・芸術作品なのだろうか。そういう見方をすれば、最初に感じた退屈とは違った感情が芽生えてくるのである。
もしそれが正しいとして、そういう見方をする映画があってもいいかとは思う。なかには極限の戦場という体験を通して、そのような思いに時間を使う者もいるだろう。それはそれでいいのだが、やはり戦場という現実は今日の自分の命を繋ぐ事すら困難な場所。思索など吹き飛ばすくらい半端なく厳しいんじゃないのか、とも思ったので、美しい映画と認めつつも、少し頭でっかちで現実逃避的な青臭さも感じた。特に映画の舞台となっている戦場はあの悪名高き「餓島」ですから。
全てを壊す戦争が生み出すものは何か。
言葉に言い表せないほど圧倒的な映像世界にテレンス・マリックの本領を見た。
その凄すぎるカメラワークによって一気に"ガダルカナル島の戦い"の追体験へ引きずり込まれる。
多くの戦争映画の中でも戦地での"人間"を描き出した特に優れた作品だ。
戦争という極限を体験する人間を嘲笑うかのようにガダルカナル島の大自然はその太古からの営みを変わることなく続ける。
このまま生にしがみつくために戦い続けるか、それともこの世の全てから解き放たれ安息の地へ向かうのか。
一方、安息の地など存在するのか、死の先には何が在るのか、信じて来た神の仕打ちが戦争なのか。
人間と自然。
生と死。
神の存在。
戦争という愚行は多くのものを破壊し、多くの問いかけを与える。
人々は死という極限の体験にその答えを見つけ、忘れ、また繰り返す。
映し出される太古からの自然の営みと同じように、人間の太古からの営みは争うことなのかも知れない。
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