ミリオンズ : 映画評論・批評
2005年10月25日更新
2005年11月5日よりシネマライズほかにてロードショー
対照的な子供ふたりの快演は観ていて楽しい
結局「シャロウ・グレイヴ」と「トレインスポッティング」だけのヒトだったのね、と思われたダニー・ボイルだが、どうも大きな映画では美質が消え失せてしまうタイプの典型であるようだ。しかも故郷イギリスの現実を背景にしないと、持ち前のユーモアもスタイリッシュなビジュアルも上っ面なものに終わってしまう。埋もれた近作「ストランペット」(01)の相当なエモーションにそれを感じて以来、彼をいささか見直してたところで本作の登場というわけ。
ユーロ市場加盟直前の数日という、英国が大きく変化する特殊な瞬間を舞台に選んでいることだけでも、ボイルの原点回帰と新たな出発への意志を感じさせるだろう。実際、大金の詰ったバッグやそれを狙う悪人の登場などが「シャロウ・グレイヴ」と重なるから、そんな思いはいっそう強くなるわけだ。
でもコレは、いわばファミリー映画。やたらと経済感覚に優れた兄と、清貧の心豊かな……というよりキリスト教オタクな弟、という子供ふたりの快演は観ていて楽しい。ボイル作品をいつも鼻白ませる生硬な社会批評と「いい話」にまとめちゃおうという傾向は今回も同様だが、子供の眼でみるとそれもまぁ許せるはず。とりわけ弟の視るやたら下世話な「聖者」の幻視は、これだけで映画が1本できてしまいそうな欧州らしい感覚だろう。
(ミルクマン斉藤)