メメントのレビュー・感想・評価
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人間不信の頂点
人間不信の頂点にあるのが、本作だと思う。
他人は信じられないから、自分を信じる。メモを残し、メモにある事実を信じる。しかし記憶がない過去の自分が他人のように思えるならそのメモは果たして事実を語っているのだろうか…?〈私〉も他人も誰も信じられない。徹底的な不信。
信じられるのは映画の「力」のみだ。しかし映画もメモの集積みたいなものだ。ショットとして現れるイメージは事実を語っている。ただその事実はどこまでいってもフィクションだ。そこには意図があるし、あるがままではない。現実の部分を切り取ったメモでしかない。それなら私たちは映画のメモをどこまで信じられる…?編集で再配置されているならなおさらだ。
時制を遡行して鮮やかなサスペンスを語ることは本当に凄い。ショットを事実と信じさせるためには、巧みな事実の再構成がもちろん必要だし、語りが騙りへと裏切られるにはドラマが必然だ。
やっぱりノーランは凄いと思いつつ、この語り方は後出しジャンケンではとも思ってしまった。確かに現在から遡行して他者や出来事を理解することは往々にしてあるから、感覚的にも分かるし、巧みだからあっと驚かされる。しかし「過去には実はこのような出来事があったんです」とか後から言われても、私たち観賞者はそんなこと知る由はないし、それは物語の語り手に独占された方法のように思えてしまう。しかも語り手だけが勝ちを許される。
そんな不満がありつつ、出来事の整合性を確認するために冒頭をもう一度見直した。そうしたら、ファーストシーンから既に観賞者にも分かる事実が語られていて衝撃を受けた。語り手と観賞者は平等にゲームに参加しているのに、ノーランが強すぎて一方的に負けているだけだと思い知らされた。ノーランは恐ろしいし、やっぱり凄い。
今の自分は10分前の自分と同じ人間なのか
クリストファー・ノーランの時間解体の構成術が、非常に強く効いている作品。10分しか記憶が持たない男のある復讐事件の顛末を時間軸を巻き戻すように見せていくことで、スリリングさを演出している。記憶が持たないために、主人公は過去が定かではない。過去は僕らにとっては固定的なものという認識だが、その前提がこの男の場合、ない。
未来に何をするかも、過去に何をしたのかも、どちらも不定形であるというのは、こんなに不安なものなのか、と見る人に納得させる。人間の同一性は何を持って保たれているのかという問いを突き付けられたような気分だった。10分前の主人公と10分後の主人公、姿かたちは一緒でも、同一人物なのかどうかわからない、というぐらいに行動が変わっていることがある。
この人格すらバラバラに感じさせる雰囲気作りに、時間を解体する構成が非常に上手く機能している。個人的には、これはノーラン作品でベスト3に入るくらい好きだな、と改めて思った。観終わった後にも、自分の中に不安が残るのだ。
今の自分と何分か前の自分って本当に同じなのか、みたいな。
🎦メメントと📺ビーチボーイリバーサイド(アニメオンエア版)を一緒にすることは間違いです(笑)
15年振りの再見。この作品の難解さはその構成の難解さもさることながら(参照解説サイト①)、実はそれだけだと完全に説明できない点がいくつも指摘されてしまうと言う難点がある(参照解説サイト②)。結果サイト②であるようにこれを全て辻褄合わせるには、レナートの妄想だった説に至りがちになる。
①【映画掘り下げ】「メメント」の超難解な謎解きをすっきりさせる地図を描いてみました。(参照解説サイト①)
②映画『メメント』解説&考察 ※ネタバレ有り(参照解説サイト②)
ただこれは、ノーランの立ち位置を非常に誤らせる事にになるので、指摘をしておく必要があるのであるが、ノーランの作品制作の根底にあるのは1900年代初頭の哲学思想である実証主義、ケンブリッジ派などと呼ばれるラッセル、ホワイトヘッド、ウィトゲンシュタインなどの哲学潮流に影響を受けたマッハやアインシュタイン、ボーア、そしてのちのオッペンハイマーなどに通じる思想的背景がある事を知っておく必要がある。
ご承知のようにボルツマンの熱力学、ノイマンのフラクタル理論、シュレーディンガーの量子力学など、20世紀の最先端科学の理論の未解決部分であるマクロ力学とミクロ力学の大統一理論への期待がベースにあり、それゆえノーランの映画作品はシュールリアリズム芸術論やフロイトやユングなどの夢理論など、全てマクロ力学とミクロ力学の矛盾へのアプローチになっている時代背景を色濃く反映しており、その統一理論の一表現として🎦インターステラー、🎦テネット、🎦インセプション、🎦オッペンハイマーなどの映画に首尾一貫した理論として流れている事が分かるのである。
唯我論をモチーフにした作品では最近、📺誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる、と言うソン・ホヨン脚本によるネットフリックスのドラマが、同様のテーマで良く表現された作品がありこれと併せての鑑賞をお勧めしたいところだ。
ただ、この🎦メメントの難解さは、そのテーマ性の前に技法として設定された主人公の特殊な立ち位置を本来時間軸上に進む映画と言う表現形式に10分づつの現実を(あくまでの主人公目線の)時間軸所に逆に配列し、更には現実をカラーに、想像・思念・過去?をモノクロのシーンとして配置し、それをパッチワークのように編み上げ、時間軸上に流す(すなわちマクロ力学、熱力学的な処置)、さらにそこまでロジカルに解析したところで起こる矛盾を、今度はミクロ力学、夢解析などの手法で包み上げると言う、誠に手の込んだ作風として仕上げてるので、これはもう映画の内容と言うより映画技法自体の革命と言っていいチャレンジブルな表現形式になってる事を理解する必要があるのである。
このアイデアは最近はやった中國SF📖三体のテーマでもあり、詳しくはネタバレになるので後に別のノートに詳しく書くとして、先端科学が芸術の表現形式に劇的な変化をもたらせている好例と言えるのである。
難解な映画
見事なパースペクティブ
クリストファー・ノーラン監督の名を一挙に世に知らしめた出世作が劇場でリバイバル上映です。
妻を殺されたショックで、直近の記憶が10分程度しか続かなくなった男が犯人を追うミステリーですが、その造りが頗る刺激的なのです。
何の説明もないままに、現在から過去へ向かう時間軸と過去から現在への時間軸を並行して描かれます。しかし、何の説明もないので、「これは一体何なんだ?」とはじめは混乱するのですが、その構造が腑に落ちると、「一体どうなるんだ?」の興味を惹き付けて、入り組んだ複雑な構造にもかかわらず、全く混乱する事がないのはクリストファー・ノーランならではの卓越した力です。これがカッコいいからと下手に真似しようとすると大火傷必至だろうな。
時間と記憶に拘った作品作りが処女作の『フォロウィング』(1998)から更に発展され、やがて『テネット』(2020)にまで続く歴史を2023年の地点から振り返ると見事なパースペクティブです。
傑作。
3回観て理解出来るかな…いや無理笑
非常に難解だったたけど面白かった!!
素晴らしい
え、ええぇ〜!
映画館リバイバル上映
「メメント」 2024年 映画館リバイバル上映の感想文
「オッペンハイマー」「フォロウィング」に続いてクリストファー・ノーラン作品を観た。全て映画館で。これで3作目だ。
「フォロウィング」も「メメント」も最近、映画館でリバイバル上映されていたのだ。
メメントは自分でも名前を聞いたことがあるぐらいの有名作だったので是非映画館で観てみたかったので、映画館のラインナップに並んでくれたのはちょうど良かった。
改めて、この有名作の感想を言うのは相当に蛇足な気はする。もう世の中に大量の感想と考察、賞賛の記事が存在するだろう。
だがそれでも書くと、この映画の手法は他とは一味違う。他の映画は過去から未来へと時間が進み、そして最後に結末が明らかになる。だが本作はその逆で、まず一番未来の結末が提示され、そこから1段階ごとに過去のシーンが映し出され、最後に最も過去に辿り着き、そこで真実が明らかになるのだ。
主人公は記憶障害を負っており、なんと記憶が10分程度しかもたない。なのに殺された妻の復讐を果たそうとする男だ。
どう考えても犯人を突き止めるのは無理ゲーだと思うのだが、記憶が飛んだ後の自分にメモを残したり、中でも重要な情報は体にタトゥーとして刻みつけたりして、犯人に迫らんとする。
そして物語にはいかにも怪しげな男や、協力者の女や、薬の密売人などが登場して観客を惑わせる。
観客に本当に記憶障害を疑似体験させることは難しいかもしれないが、観客も主人公と同じく過去への記憶がブロックされているという点で、映画の仕掛け的にも「記憶障害」的な感覚を実現しているのだ。
惜しくもこの日、本当に眠かった自分は、こともあろうか大事な最初の30分ほどをうとうとして過ごしてしまった。時系列の未来にあたる大事な部分だったのに。
途中からはちゃんと目覚めて見始めだが、シーンごとに時間が逆に進んでいるということに気づいたのは、しばらくしてからだった。クリストファー・ノーラン節的には時間を未来過去に前後させているという先入観があったせいもある。
で観終えた感想はというと、オッペンハイマーやフォロウィングでクリストファー・ノーランの手法を知っていたせいかものすごく大きな驚きはなかったが、それでも初めて見る手法の映画なので楽しませてくれた。
記憶の捏造
こりゃでれ面白い。やみつきになる。
クリストファー・ノーランってこの頃から時間を操ることに囚われてたんだな笑 記憶障害によりわずか10分間しか記憶を保てなくなった主人公。そんな彼の複雑な脳内を映像化するためにノーランがとったのは、時系列をまるっきり逆転させるというぶっ飛んだ演出。それにより、観客は主人公レナードの奇妙な記憶障害を疑似体験することが出来、気付かぬうちに摩訶不思議な復讐劇へと飲み込まれていってしまう。この演出だと、観客である自分たちの記憶の保持能力までも薄れてしまうんだよね...スゴすぎ。
少しでも触れたらネタバレになっちゃいそうだから大雑把に言うんだけど、この人物って一体何者?ここに行くまでに何があったの?が徐々に判明していくのが、探偵気分を味わえて最高に楽しい。サスペンスで頭を悩ませる部分もありながら、バラバラのものがひとつになっていく爽快感もありで、今まで押されたことの無いツボに刺激が与えられたような、そんな感覚。ストーリーの発想はもちろん、これを映像化させる力、マジでバケモンだよね。何回でも見たくなる傑作。ノーラン映画でいちばんすきかも。(ダークナイトは個人的に別枠)
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