真夜中のピアニスト : 映画評論・批評
2005年10月4日更新
2005年10月5日より渋谷アミューズCQNほかにてロードショー
不動産裏ブローカーがピアニストを夢みるとき
しがないチンピラの純情。たとえばスコセッシの「ミーン・ストリート」でハーベイ・カイテルが「好きなのはアッシジの聖フランチェスコ」などとつぶやくとき、清廉な人がいうよりグッとくる。この映画はそのカイテル主演の「マッド・フィンガーズ」(ジェームズ・トバック監督)を「リード・マイ・リップス」のジャック・オディアール監督がリメイクした仏映画。主人公トムを演じるロマン・デュリスはカイテルよりデ・ニーロ似だが、薄汚れた裏社会とピアノを介した精神世界とを揺れ動き、往年の“スコセッシ組”を彷彿とさせる。
父と同じく不動産の裏ブローカーをしているトムには、亡き母のようなピアニストになりたいという願望がある。ピアノのレッスンをしてくれるのは中国から来たばかりの若い娘。言葉の通じない2人は純粋に音楽だけで交流する。トムにとって不動産社会は現実であり金であり父=男の世界であり、ピアノは夢であり精神であり母や中国娘=女の世界だ。当然ながら彼はピアノに傾斜していくのだが、一度踏み込んだ裏社会から簡単には抜けられず……。トムの成長物語として見ていると最後に不意打ちをくらうだろう。それは荒々しくも切ない純情の果てなのだ。
(田畑裕美)