マンダレイ : 映画評論・批評
2006年3月14日更新
2006年3月11日よりシャンテシネほかにてロードショー
不安定な自立か、安定した隷属か
デンマークの鬼才監督による《アメリカ3部作》第2弾。前作でドッグヴィルの住人を殺戮したグレースとその父親率いるギャングたちが立ち寄ったマンダレイでは、大昔に廃絶されたはずの奴隷制度がいまだに存続していた。相変わらず正義感の強い(?)グレースは、さっそく白人どもから権力を奪い、黒人奴隷の解放と自立の手助けをするのだが……。
もちろんこれは反米的な映画だ。理想的な民主主義国であるはずなのに今も人種差別が横行する合衆国の現状への批判が込められ、グレースの行動は暴力を背景に他国に民主主義をプレセントしようとするブッシュのそれとそっくりなのだから……。
ただし、マンダレイの奴隷制度が主人と奴隷の奇妙な相互依存関係によって成り立つ事実を暴露するこの傑作の射程はさらに深くて重い。伝統や道徳、宗教といった後ろ盾を失った現代人には、強力なリーダーシップを発揮する(現東京都知事のような)指導者を求める傾向があり、そのことで自分たちの不安を安易に解消したり、人生の悲惨さを指導者の責任とする言い訳を確保しようとする。僕らは不安定な自立した人間であるよりも安定した奴隷であることをどこかで望んでいるのはないか? そんな不気味な仮説を提示するがゆえに、この“問題作”は僕らにとって極めて切実な映画なのだ。
(北小路隆志)