マルコヴィッチの穴 : 特集

イントロダクション

（編集部）

大胆不敵な邦題である。洋画で「穴」のつく作品は、「全洋画オンライン」によれば25本ある。このうち、劇場未公開作品とTV映画を除き、1960年以前の作品を削除すると8作品が残る。「穴場セックスU.S.A.」「暗黒の落し穴」「淫欲コネコネの穴場」「ウーマン・リボルバー／熱い6個の穴」「女の鍵穴」「ゴールデン・ポルノ／穴場地帯」「のぞき穴」「(秘)ガイド／ヨーロッパ穴場地図」という具合に、いかがわしいことこの上ない。

しかし、「穴」の前には「マルコヴィッチ」という固有名詞がついているものの、この穴は人体の器官のことではない。問題の穴は、とあるビルのとあるフロアにぽっかり開いているのである。そして、そこに足を踏み入れた人間は、ジョン・マルコヴィッチ氏の頭の中へと迷い込んでしまうというわけだ。どういう原理でこのビルの穴が人間の頭に通じるのかは説明不能だが、とにかく、この奇想天外なプロットが「マルコヴィッチの穴」という邦題の背景だ。

この映画、根本的には不条理でありながら、その発想の大胆さと先の読めない展開には驚かされるばかり。監督のスパイク・ジョーンズと、脚本家のチャーリー・カウフマンは、本作でそれぞれアカデミー賞の監督賞、脚本賞にノミネートされたのだが、何とふたりとも劇場映画は初体験というからさらに驚きだ。この、とんでもない才能については改めて語るとして、映画ファンならその出現自体をまずは素直に喜びたい。主人公の妻役、キャメロン・ディアスのブス顔や、マルコヴィッチその人の難易度Ｃな演技も印象深い。

何はともあれ、いかがわしそうな邦題に油断してはいけない。あなたの想像をはるかに凌駕するほど、この「穴」の奥は深いのだから。