ロスト・イン・トランスレーション : 映画評論・批評
2004年4月1日更新
2004年4月17日よりシネマライズほかにてロードショー
彼らは外国で孤独を感じている者らしい行動をとる
「R」と「L」問題。通勤電車でエッチな漫画を読む男性。背の低いサラリーマンのなかで頭一つ飛び出た外人。幼稚でおどけたTVショーのホスト。トレンディなクラブでトレンディな人々が英語らしき言葉で交わす脈絡のない会話。漢字の看板。回転寿司。東京を訪れた人の心に残るのはこうした事柄だろう。
そしてこれは、数々の賞を受賞したソフィア・コッポラの新作で描かれる東京でもある。ステレオタイプだって? 明らかに。表面的? 間違いなく。中年の映画スター、ボブ(マーレイ)と若い人妻シャーロット(ヨハンソン)は、外国で孤独を感じている者らしい行動をとる。異文化を理解しようとする代わりに、同郷の似た者同士でつるんで異文化を「体験」するのだ。当然、表層的な東京しか見えてこない……もっとも東京をこのレベルでしか知らない訪問者(含コッポラ女史)は少なくない。住人である私にはいささか退屈だったが、主演俳優の優れた演技を際立たせる舞台設定としては、シンプルでいいのだろう。
何しろ、気の散る要素はひとつもない。この2人が歯を磨く場面だって、喜んで見入ってしまうだろう。ほかに感情を揺さぶる人物も出合いもない砂漠では、実はありふれた2人の関係もオアシスに見える。