ロード・オブ・ドッグタウン : 映画評論・批評
2005年12月6日更新
2005年12月10日よりシネマライズほかにてロードショー
そのギリギリの場所を「波」になぞらえて
貧しい街で育った悪ガキたちが成り上がり、目一杯つっぱって暴れた挙げ句、大人たちの食い物にされてボロボロになっていく――。一体これまでに何度同じような物語を見たことだろう。この映画は実在するサーファー/スケーターたちの物語の映画化だが、それはロックバンドの物語にも、ギャングの物語にも置き換えられる。しかし似通ったそれらの物語の繰り返しは、それぞれたった一度のかけがえのない繰り返しであることを、この映画は教えてくれる。
その「かけがえのなさ」とは何か?
この映画のテーマ曲的な扱いで何度も流れる「Wish You were Here」がすべてを物語る。ピンク・フロイドの名曲をスパークルホースがカバーしたこの歌は、もはやここにはいない「あなた」に向かって歌われる。そしてそこのとによって、それを歌う「わたし」が以前とは決定的に違う場所に来てしまったことを示す。すべてをまったく違った場所に置き換えてしまう決定的な一瞬。そのギリギリの場所を、この映画は「波」になぞらえて、サーファーたちの愛と憎しみと悲しみと絶望の物語として示すのだ。もちろんそれこそ、それを見る私たちの願いでもあるのだと、それは語りかけてくる。「あなたにここにいてほしい」と。
(樋口泰人)