「素晴らしいラスト」リトル・ダンサー キレンジャーさんの映画レビュー(感想・評価)
素晴らしいラスト
いやぁ、良い映画でしたねぇ。
これ、2000年公開のイギリス映画なんですよね?
私は今回のリバイバル公開まで一切この作品のことは知らなかったレベルの不勉強者なもんで、今さらこれ観て「良い映画でした」なんてみっともないことを映画好きなら言ってちゃいけないんだけど。
良い映画でしたねぇ。
当初は勝手に「スポ根もの」みたいなイメージを持って観始めてみたら、これはこれは。
バレェの知識なんかこれっぽっちもない私にとって、彼のダンスがどう良いのかはよく分からない。
でも確かに良いのです。
いわゆる「バレエ音楽」というのではなく、イギリスらしいグラムロックにのせて躍動する、ビリーの少し小さい、それでもエネルギーに溢れた身体。
※このあとストーリー書きますのでご注意ください。
お父さんの前で初めて披露するダンス。
大人たちが過去に縛られ、今の生活に汲々とする中で、子供たちは新しい扉を開き、着実に一歩を踏み出していることを目の当たりにする。
少しだけ理解が進んだ父親の支援を得てオーディションを受けたビリーは、ついにバレエスクールへの入学の権利を手にする。
一気にハッピーエンドかと思いきや。
ビリーの才能を見いだしたウィルキンソン先生には、(当初父や兄が失礼をはたらいたこともあったからなのか)ちゃんと喜びやお礼を伝えられないという「ほろ苦」。
そしてビリーの旅立ちの日。
お互いが寂しさを抱えて多くを語らない家族の中で、一番近くにいて一番遠かった兄の「I MISS YOU」。
でもこの言葉はビリーには届かないという「ほろ苦」。
私も耐えきれずオロロロロロォン、と泣いていると、さらに数年後にシーンが進む。
ついにビリーの主演舞台。
白鳥の湖のおそらく「オデット姫」を、男性として任され、ステージに登場する直前の舞台袖。
背が伸び、筋肉の隆起したその後ろ姿の凛々しさと美しさにまたオロロロロロン。
主人公もさることながら、私はやはり父親にひどく感情移入してしまった。
ビリーのために、妻の形見に手を付ける苦しさ。仲間の非難覚悟で組合活動に背を向け、自ら日常に帰っていくその姿。
夢を叶えることは、誰かが何かを犠牲にすることかも知れない。
その苦労があるからこそ、目の前の主人公が輝くんだな。
ここで登場する炭鉱労働者もイギリス社会においてはマイノリティ。
そのマイノリティの中でまた格差や差別や分断がある。
ラストのステージは、それが芸術を通して融和していく素晴らしいシーン。
もう語りたいことが溢れてくるのでこの辺で。
とにかく観てください。
良い映画なので。