「踊りだすと何もかも忘れて」リトル・ダンサー ドーナッツかじりさんの映画レビュー(感想・評価)
踊りだすと何もかも忘れて
最初は体が硬いけど、踊りだすと何もかも忘れて、すべてが消えます。何もかも。自分が変わって、体の中に炎が……。宙を飛んでる気分になります。鳥のように。電気のように。
ダンスを踊っている時の気持ちを聞かれたビリーの言葉が、本当に美しい。ロンドンで鑑賞したミュージカル版が素晴らしく、映画版は舞台を超えられないだろうという偏見があった。今となっては、今日まで本作を見ずに生きてきたことを後悔している。
舞台は、イギリスの炭鉱町。母を亡くし、炭鉱で働く父と兄はストライキの真っ最中。全く好きになれないボクシングのレッスンに通うビリーは、近くで女の子たちが練習していたバレエに惹かれ、たちまち夢中になっていく。
暗く沈んだ家庭、父や兄との関係、ストライキにより緊張状態の街、バレエを女の子のものだと決めつける世間の目……まだ11歳のビリーは悩み、迷い、立ち止まる。しかし、踊り出すと全てが消え、自由になる。様々な苦難を超え、人々の思いをのせ、躍動するビリーの姿が胸に焼きついて離れない。心が動かされるダンスというのは、こういうものなのだろう。
ベッドの上で跳ねたり、チュチュを着た女の子の中で踊ったり。母が遺した手紙を何度も読んだのか、ウィルキンソン先生の声に合わせて暗唱したり、父と草の上を転がりながら抱き合ったり。心にそっとしまっておきたくなるような、愛おしいシーンが満載だ。そして、好きなダンスシーンが多過ぎて、ひとつに絞れない。ビリーの夢見る気持ちに照らし出された人々の表情が、心に炎を灯してくれる。厳しく、ままならない現実に押しつぶされそうになっても、ビリーのことを思い出せば、たちまちその炎は燃え上がる。