「彼女たちの行き着く先」子猫をお願い sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
彼女たちの行き着く先
高校時代に仲の良かった五人組が、卒業後にそれぞれの進路を歩み始めてから少しずつ関係性が変化していく過程を丁寧に描いた青春群像劇。
説明的な描写が少なく、あくまでも繊細な彼女たちの心情にフォーカスを当てた作風にとても好感を持った。
思えば自分は学生時代にどれだけ仲の良かった友人でも、卒業してからは自然と距離が開き今ではほとんど連絡を取ることもない。
もちろん卒業してからもずっと親友で居続けられる人もいるのだろう。
そう考えるとお互いに生活環境や価値観が変わり、気持ちのすれ違いが増えたにも関わらず、理由をつけて集まることの出来る彼女たちの姿は尊いとも感じた。
五人組の中でも大きく心情が変化したのが上昇志向の強いヘジュだろう。
彼女だけが故郷のインチョンを離れソウルの証券会社に就職し、自分を磨くために服や美容に金を費やすことを惜しまない。
彼女はやがて旧友たちの存在を疎ましく思うようになるのだが、真っ向から対立してしまうのがジヨンだ。
彼女は両親を亡くしており、祖父母と共にボロボロのバラックで貧しい生活を送っている。
彼女にはデザイナーとしての素質があるのだが、残念ながら仕事に結びつくことはない。
ヘジュも一見充実した生活を送っているようだが、背伸びをしているだけで心の底から幸福感を味わうことが出来ない。
そしてそんなヘジュの見えっ張りな姿にジヨンは我慢できなくなってしまう。
五人の仲を取り持つ中立的な役割を果たすのがテヒだ。
彼女は実家の家業を手伝う他にボランティア活動をしているが収入はない。
この映画の中では一番献身的なテヒだが、彼女も現状に満足することが出来ずに、ここではないどこかに行きたいと願っていた。
そんな彼女たちの鬱屈した心を映しながら物語は進んでいく。
ある日、五人組の集まりから帰ってきたジヨンはバラックが崩壊している様を目撃する。
彼女は大家に天井が崩れかけていることを訴えていたが、まったく相手にしてもらえなかった。
警察はジヨンに事情聴取をするが、彼女は何も答えない。
警察側は彼女が故意に祖父母を死なせた可能性もあると考えたのだろう、彼女を拘束してしまう。
それでも何も答えないジヨン。
面会に訪れたテヒに、外に出ても自分の居場所がないと答える彼女の姿が痛々しかった。
さてこの映画には子猫が登場するのだが、その存在がとても象徴的に感じた。
金がないためにジヨンが捨て猫を誕生日プレゼントとしてヘジュに贈ったのが始まり。
しかしヘジュはソウルに引っ越しするため、再び子猫はジヨンの元に戻って来る。
そして今度は警察に拘束されたヘジュの代わりにテヒが子猫を引き取る。
しかし彼女にはある計画があった。
ここではないどこかへ行くために、彼女は子猫を仲良し五人組のピリュとオンジュに預ける。
そして彼女は開放されたジヨンを旅に誘うために迎えに行く。
決して明るい作品ではないが、最後は清々しい気持ちになれた。
個人的にはこの映画を10代、20代の多感な時期に観ておきたかった。
おそらく今よりももっと共感する部分が多かっただろう。
映画もどのタイミングで出会うかによって大きく印象が異なる。
久しぶりに若い時のペ・ドゥナを観たが、やはり彼女の存在感は際立っていた。