私の頭の中の消しゴム : 映画評論・批評
2005年10月18日更新
2005年10月22日より丸の内ピカデリー1ほか全国松竹・東急系にてロードショー
純愛映画が獲得していく意外な奥行き
愛の永続性を信じたい。なのに運命は試練を与え……純愛映画の多くはそんなプロットに集約される。永作博美主演の連ドラ・リメイクである本作も、ヒロインはアルツハイマーによって愛する人との想い出を蝕ばれ、まさに方程式に忠実だ。
ところがこのファンタジーは、意外な奥行きを獲得していく。クラシカルなお嬢様とワイルドな男。買ったはずの「コーク」を彼女がコンビニに置き忘れたことで、対照的な2人は出会った。冒頭からラテン音楽が饒舌に流れ、無国籍な雰囲気が醸成される。男は大工上がりの建築家。韓国の街並みをアメリカナイズしていくというイコンである。マッチョな彼と一体化するにつれ、ヒロインの健忘は加速度を増す。滅びゆく前時代の精神が、近代化の中で揺らぐ――「殺人の追憶」や「4人の食卓」でも描かれた急激な変化の中で生じる時代の歪みや不安が、若き夫婦の関係に象徴されているように見えてくる。
記憶=アイデンティティーを失っていく妻と、何とか記憶を繋ぎとめておきたいと願う夫に感情移入してしまうのは、韓流や純愛という枠組みを超え、古き良き価値観に健忘症になるプロセスを歩んできた昭和のDNAがうごめくからなのかもしれない。
(清水節)