劇場公開日 2002年9月7日

「ノーラン監督への試験」インソムニア あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ノーラン監督への試験

2021年6月23日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

ノーラン監督は1970年生まれ
大学では英文学専攻ながら映研の部長をしていたという

第1作 フォロウイング 28歳
ほぼ自主製作みたなものだろうが多くの映画祭で賞を獲得した

第2作 メメント 30歳
マイナー配給で当初は全米で11館しか無かったという
それが最終的には500館以上に拡大される大ヒットになる
なんとアカデミー賞にノミネートまでされてしまう

映画監督志望の若者なら誰しもが夢みるシンデレラストーリーだ

それでもここまでなら、たまに現れる彗星だ
普通はそこまで

次回作からは興行成績は良くてボチボチ
制作費が回収できたら御の字
業界や映画好きの間で少し話題になる程度
こんな調子で十年かかって1~2作
上手くいけば初めて名を聞くような映画祭で何かの賞が穫れるかも知れない
テレビかCMか、何か映画業界に関わる仕事をこなしながら、いつの日にか歴史に残る傑作を撮るのだと夢を燃やしつづける

ノーラン監督もそんな一人になっていたかも知れない

世の中には若くして抜擢されて、みるみる出世していく人がいる
本人の秀でた才能、業界の大物の引き、良いスタッフに恵まれる強運
それらみんなを気がつけば自分の周囲に自然に引き寄せてしまう人間的な魅力
そんなものが総合的に作用して、抜擢されていくのだ

本作はノーラン監督の3作目
彼に取りこの作品こそか出世街道のハイウェイの入口だったのだ

非凡な才能を示した若者
少しエキセントリックな作風だ
だから一般大衆に支持される映画を何本も撮れる実力があるのか?
本当に将来業界を背負って立つ監督になれるほどの逸材なのか?
幾ら芸術的に優れていても難解で独りよがりな映画しか撮れないのならそういう監督のコースを進めばいい
それをノーラン監督は本作で確かめられたのだ

誰から?
もちろんハリウッドの大手映画会社だ
具体的にはワーナー・ブラザース
そしてその映画業界の大物達から

製作者の中にジョージ・クルーニーとスティーヴン・ソダーバーグの名前がある
それはそういう意味なのだと思う

アル・パチーノとロビン・ウィリアムズも自ら出演してノーラン監督を確かめようとしたのかも知れない

脚本も弟のジョナサン・ノーランの作品ではないのはなぜなのか?
現在からみればノーラン監督が本作を撮るべき必然があまり感じられないのはなぜなのか?
それは本作が課題作品だからだ
ノーラン監督がこの課題に対してどのような作品を撮り上げてみせるのか試されたのだ

だからノーラン節というものは、本作においては微量にしか感じることができないのだ

結果はどうか?
観てのとおり、そつなく水準以上のレベルでこのサスペンス映画を撮ってみせた

期待されるクオリティを上回った
その上でノーラン監督らしさも最小限加味してみせたのだ
つまり合格したのだ

こんな試験を屈辱と感じるのか、回避する監督も中にはいる
それでは大きな仕事はできないと思う
本当に自分がやりたい大きな仕事を達成するためにはチャンスを掴み挑戦して乗り越えるべきことだと思う
自己の才能を証明してみせなければならないのだ
それに勝つことで大きな仕事に抜擢され、遂には自分が本当にやりたいこと、撮りたい映画に巨額の資金、人材、時間を投入できる立場になれるのだ

ノーラン監督はこの試験に合格して、次回作バットマン ビギンズの監督に抜擢されたのだ

そこからノーラン監督の夢が実現されていくのはご存知のとおりだ

本作こそハイウェイへの入口だったのだ

あき240