「品格のある悪役。」武士の一分(いちぶん) とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
品格のある悪役。
そんな役を演じられる役者がまた逝ってしまった…。合掌。
「島田は品格がなければいけない」と監督が坂東氏にオファーしたと、坂東氏のインタビューで読んだことがある。
下世話なセクハラ上司。TVドラマのように「お主もワルよのぉ」「ゲへへへへ」ではないのである。憎ったらしい悪役が最後に成敗されて、メデタシメデタシではないのである。
昼のメロドラマなら、中途障害者になってうっ屈した日々を送っている夫より、品格があり親身になってくれる上司になびく妻、でも、やっぱり夫への情がたちきれない…という展開もありだろう。
だが監督が描きたかったのは違うらしい。
基本密室劇。新之丞は動かない。 新之丞と加世の日々。そこに徳平が絡む。
下級武士。島田ほどの品格・格式はない。でも夫と妻の立場は明確で現代劇のようなべたべたのやりとりはない。歯がゆい。まだるっこい。正直、おままごとを観ているみたいだ。生活状況はひっ迫しているはずなのに。もっと葛藤していいはずなのに。役者の演技力の問題?あえての演出?
だから「命をかけて守りたい一分」と聞いても今ひとつピンとこない。
何かに、例えば自分の生き方に区切りつけたかったんだろうな。
応じた島田の方が、自分の生き方に決着付ける為にこの果たし合いを受ける覚悟のようなものがすっきりとくる。
「武士の一分」て、新之丞だけのことではなく、島田の一分でもあるんじゃないか?
だとすると、やっぱり品格がある悪役じゃないと映画にならないんだなと思った。
と、坂東氏ばかりを讃えているが、木村氏も見直した。
目が見えなくなってからの視線にビックリ。殺陣の場面でもそうですが、眼球が動かない。突然の音にびっくりするのでも、体は反応するのに、視線は動いていない。すごいなあ。
ある雑誌記事で、木村氏はスチール撮りでも、フラッシュで瞬きしない、目が赤くならないで、撮り直しが極力少なくって現場は助かるという話を読んだ。そんな自律神経や動物としての反応までコントロールできるなんて、プロですね。
それに他の若手役者みたいに着物に着られていないし、殺陣も様になっていました。
新之丞、加世、徳平の絶妙で軽妙なかけあいで綴る日常。だのに、木村氏ばかりが方言話していたかのような印象。やっぱり音感良いんですね。
とはいえ、アンサンブルなのに、木村氏だけ前に出てしまうバランス感覚には疑問。ハーモニーにしてほしかったかな。
音響の問題なのか?木村氏のスケジュールが立て込んでいて、雰囲気をならす時間がなかったのか?木村氏は与えられた仕事を、周りは見ずに自分目線で完ぺきにやって、終わりみたいな。
木村氏だけの演技を観るとうまいなあという感じなのだけど、他の共演者とのバランスが悪い。台詞も巧妙なんだけど、木村氏だけが飛び出す絵本みたいに存在を主張しすぎているというか、一人芝居みたいになっちゃっていると言うか。それで”俺様”っていわれちゃうのか?
そんなバランスの悪さからも、夫婦の日常がおままごとみたいで、夫婦の情愛をあんまり感じられなかった。だから妻の為というより、寝取られた男の一分のための決闘に見えてしまう。
残念。
笹野氏は言わずもがな絶品。
虫よりも軽く扱われる下級武士。だからこそ見せたい意地。
原作未読。前2作も未視聴。いわゆる昔の時代劇とは違うけど、良品だと思います。