「頻繁な「キューブリック・ステア」が気になってしまう。」シャイニング すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
頻繁な「キューブリック・ステア」が気になってしまう。
◯作品全体
人物を画面の正面に据えてカメラをジッと睨ませる、通称・「キューブリック・ステア」。
キューブリック作品において、人物が抱える狂気や負の感情を強烈に印象づける演出だ。キューブリックの初長編監督作である『恐怖と欲望』から既にプロトタイプのような演出があり、キューブリックにとって、いわば洗練された「決め球」と言える。
本作でもこの「決め球」は炸裂している。ホテルの管理人となったジャックを蝕む、ホテルの呪いを表現する時に、据えた目線と吊り上がった口角でカメラを見据える。ジャック役のジャック・ニコルソンの表情も強烈だし、その表情を無機質に映し続けるカメラも恐怖を煽る。静かにジャックを侵食していく呪いの演出として存分に機能していた。
しかし「決め球」は連発してしまえば相手に見切られてしまう。藤川球児のストレートも、千賀滉大のフォークも、それぞれ別の球種があるから「決め球」がさく裂するのだ。そう考えると本作の「キューブリック・ステア」はあまりにも多投しすぎだと感じた。呪いの表現はそれ以外にもいろいろあったが、強烈な印象を与える「決め球」に負けてしまっていて、「決め球」の多投を意識してしまう。
狂気が徐々にジャックを侵食していくストーリーラインもキューブリックの得意技ではある。登場人物のおかれた環境、誰かとの関係性、なにかへの固執…それが徐々に登場人物を蝕んでいく姿は、過去作品でも印象的だった。しかし本作における狂気の源は「ホテルの呪い」という抽象的なもので、なぜジャックを侵食していくのか、という部分もあいまいなように感じた。
キューブリック作品は得てして奇抜なプロップや独特な配色によって脚色されているものの、本質は「地に足のついた狂気」なのでは、と思う。
そう意味では「ホテルの呪い」という、ザ・ホラーな題材は、キューブリックの「決め球」を使うにはしっくりとこないもののように感じた。
〇カメラワークとか
・ホテルの廊下や呪われた部屋の映し方は、さすがの不気味さだった。カメラの動かし方が巧い。曲がり角を曲がるときに緩急を付けてカメラを動かしていたり、部屋を映すときも死角を意図的に作り、焦らすようにカメラを動かす。FIXの一点透視のカットが不気味に見えるのも、このカメラの動かし方が下地にあるように感じた。
◯その他
・初見のときはジャックの妻・ウェンディのヒステリックな感じが苦手だったけど、改めて見るとふにゃふにゃ動くシェリー・デュヴァルが面白くてそっちに目が行ってしまう。