「共感してしまったら怖い。」シャイニング 華さんの映画レビュー(感想・評価)
共感してしまったら怖い。
冬の無人ホテルの管理人としてやってくる家族。
売れない作家のパパ、ごく普通のママ、不思議な雰囲気はあるけど無茶苦茶可愛い息子。
冬の間だけでも大きくてあんなに素敵なホテルを占領できるなんて、私なら大喜びで引き受けてしまう仕事です。しかもギャラまで出るなんて最高じゃないですか。
私が物書きだからかもしれないけど、ああいう非現実的な空間で本職も進められるなんて、パラダイスだなと思いながらワクワクして観てました。
タイトルにつけた「共感」を誰にしたかと言うと、私の場合は奥様です。
仕事に行き詰ってキレるタイプは厄介ですね。
誰かに対して声を荒げることで仕事が進むならいいけど、別にそうでもないらしいし。
周囲にあの手の人がいるので、旦那さんにキレられている時の奥様の顔は見るに耐えませんでした。
けど、その人が嫌いなわけではないし、出来ればこれからも上手くやっていきたいと思っていれば思っているほど「しばらくしたら、元の穏やかな性格に戻るから」と、言い返さず耐えてしまうんですよね。
わかるわ……
そんな人間じゃないと、誰よりも信じていればこそ。
作中のジャックは、作品の解説で「呪われたホテル」の悪意のようなものに取り憑かれて発狂してしまう、というような文言を読んだ気がするのですが、どちらかといえば、彼が取り憑かれたのは自分自身の中にある創作上(或いは空想上)の殺人鬼であったような気がします。
物語の冒頭、
以前、同じホテルの管理人をしていた男性が、閉所恐怖症によって狂い、妻と二人の娘を惨殺してしまい、自分も銃で頭を撃ち抜いて自死してしまったという過去の話をジャックが聞くのですが、
ジャックはこの話を聞いた時から、その話を、自分の作品の素材として使いたくなっていたのではないかと感じました。
迷路の模型を眺めているジャックが、途中からその模型の中に、妻と息子の姿を見るというのも、何となくその感じを示唆している気がしたので。
頭の中では、もうそのホラーの話を元に、プロットを作り始めているんだなぁと。
自分の書きたい理想の殺人鬼に取り憑かれた、憑依型作家の話。というのが私の感想です。
散々考察されているようですが、改めて鏡の使い方や見せ方はとても印象的です。
個人的には、パーティー会場で出くわすグレーディーとトイレで話をする際に、グレーディーが鏡に映っているかどうかを目で確かめようとするジャックの描写は確実にあるのに、肝心の鏡を受け手には見せてくれないあたりの意地悪さ加減に痺れました。
人間は、自分の中の不穏な想像に一番怯えるものだと思うので。
だからこそ、あそこで明確にグレーディーの存在を確かめさせないのは素敵ですね。
そのほかにも、明確に「これはこうだ」と説明的でないシーンが多いからこそ、この作品の怖さは増しているのだと思います。
だからもしかしたら、この作品の何が怖いかが分からないという人は、想像力が落ちているのかも? もしかしたらです。悪意はないです。
てか、怖くないなら怖くない方が疲れなくていいのかもしれないし。
ラストのあたり、ジャックがウェンディを追い込み始めて明確に殺意を口にし、更には斧で追い回すシーンあたりから、もうあまりにも怖くなってしまって、
「やっぱり、理由もないのに怒鳴り散らすような人間を野放しにするんじゃなかった!!」
的な、現実の自分としても反省し絶望したような気分になり、斧でドアをガーン! ガーン! バキバキ! とぶち壊され、恐怖に慄くウェンディに
「もうやるしかない! これは正当防衛で勝てます! いっちゃいましょう! やっちゃいましょう! そんな、手なんかちょっと切ったってどうしようもない!! 首行こう! 頸動脈行っちゃおう! 旦那だけど、もうこれは仕方がない! 今までありがとうさようなら! 殺して良し! ママがモタモタしてたら子どもまでやられるよ! 早く! 頑張れ!!」
と、まあまあのボリュームの声で大応援していました。
更に、
「うるせーーなさっきから! デカい声出せば女子どもはビビると思いやがって!! その声のデカさが、お前の男としての弱さなんだよ!」
的な感じで、ジャックに対していちいち言い返すということをしていないと怖くて見られないので、とにかくテレビ画面から出来るだけ離れて、私は私で応戦していました。
雪上車にウェンディと息子のダニーが乗ってからも、そのエンジンが止まるのではないかとハラハラして、でも一旦時間を見たらもうすぐエンディングだったので(これは良くない癖ですね。本来は時間なんか確認してはいけない。野暮だなー)これはおそらく逃げ切れた! やったーー! と、すごく喜びました。
ラストの写真に関しては色々な説があるようですが、まぁ、インディアン達を迫害したり冒涜したりしたツケで、呪いとしてずっと輪廻転生してる、というのが個人的には一番腑に落ちるかなと言う感じです。
ただ、私はAmazonプライムで観たので、140分くらいあるバージョンではない短いものしか観ていません。
そのため、合計およそ20分もカットされたシーンがあることを知らず「ジャックが壁に向かってボールを投げているシーン」で、その壁画がインディアンだとは明確に分かっていなかったということもあり、その他のカットシーンも含め、
何故そんな重要なシーン切るの??
と、非常に不思議でした。
じゃなくても不可解なシーンが多いのだから、せめてそれくらいは見せてよ。と言いたい。
星を4.5にしたのは、そのカットが不満だったからです。そのほかは何の文句もないし、ダニーの可愛さだけで星5でもいいくらいなのですけどね。
あと、ジャックニコルソンの虹彩が綺麗。
綺麗だからこそ、雪遊びをする妻と息子を見ている時の表情が怖すぎました。
いや〜怖かった!ダニーの可愛さだけに癒されてました。あの時代ならではの音響の怖さと俳優さんの演技力ですね。鏡の話はなるほど、凄いところに気付きましたね!あのシーンまでは最後の人間らしい部分が若干垣間見れたのに説得されるような形で悪魔になってしまいましたね。私も画面に向かって、悪霊退散!母親なんだから頑張れーって叫んでましたw迷路のダニーはホームアローン的で賢かったですね。