「頼む、私の話を聞いてくれ」ハウルの動く城 あじたま3号さんの映画レビュー(感想・評価)
頼む、私の話を聞いてくれ
ハウルの動く城は本気で100回見た。
この作品、原作未読の方が一度観ただけでは絶対に理解できない。でも、「意味わからん映画」で片付けてしまうのはあまりにもったいない。
何気ない言動に大きな意味を持たせている、実に精巧な映画であることをどうしても知ってほしい。
●ハウルとカルシファーの契約
カルシファーはもともと魔力を持つ星の子。星の子は空から地に落ちると消滅してしまう儚いもの。
それを可哀想だと思った幼少のハウルは、ひとつの星の子に自分の心臓を与えます。ハウルの心臓を手に入れた星の子は、カルシファーという名の火としてハウルに仕えるようになります。
契約を解くには第三者(ソフィー)がこの経緯を暴く必要があります。
ここの理解がとても大事で、物語の理解に直結します。しかし映画内では終盤のたった数十秒、一切のセリフ説明がないシーンで理解せねばならず、かなり難解。
●ハウルが心臓を取るという噂
冒頭、帽子屋にて「隣町の子、ハウルに心臓取られちゃったんだって」というセリフや、お菓子屋で妹のレティーがソフィーに「それがハウルだったらお姉ちゃん心臓食べられちゃってるよ」と忠告するセリフがあります。しかしハウルは物理的に心臓を取って食べたりはしません。
前述した通り、ハウルは契約によって心臓がありません。この空虚感を、美しい女性の心を奪う=自分に恋をさせることで満たしています。(ソフィーとレティーの会話で「ハウルは美人しか狙わない」というセリフがあります。)
荒地の魔女もハウルに心を奪われた1人であり、そのために終始ハウルの心臓を狙い続けます。
(英語版では「かつての荒地の魔女がとても美しかったため、初めは自分から追いかけたのだ」とハウル自ら明かしています。昔は美人だったのか。笑)
●老婆になったソフィーが急に若返る
荒地の魔女にかけられた呪いで、ソフィーは老婆の姿になります。しかし就寝時や素直に感情を表すとき、自信を持って行動するときに元の若い姿に戻ります。ソフィーの呪いが解ける明確なシーンはないのに、物語の終盤では完全に若い姿のままです。
以上のことから荒地の魔女がかけた呪いは老婆になる呪いではなく、ソフィーの内面が外見に現れる呪いだったと思われます。
容姿に自信がなく、長女だからと自分を押し殺して帽子屋を継いでいた少女のままであれば、呪いが解けることはなかったと思われます。
●ハウルの戦争に対する姿勢
ハウルは戦争で自分の魔力を使うことに反対の姿勢を貫きます。王宮にて、国王に変装したハウルは「魔法で戦に勝とうとは思わない」「一部の被爆を阻止できても別の場所に落ちてしまう、魔法とはそういうものだ」といった趣旨のセリフで自分の意思を表明しています。
一瞬にして人の命を奪う軍兵器には強い嫌悪感を示し、自国の兵器であっても故障させてしまうシーンがあります。ハウルはよく1人で戦場に向かいますが、戦争に加担しているのではなく、戦争そのものと対立しているのです。
一方、ハウルの(魔法学校時代の)師匠であるサリマンは、王室つき魔法使いです。自国のため、戦のために魔法を使うことを正義と信じて疑いません。国のために力を貸さないハウルを〝悪魔と契約して心をなくした〟と決めつけて非難します。
●ハウルとソフィーはずっと昔に出会っていた
荒地の魔女がカルシファーから透けるハウルの心臓に気付き、無理やり手に入れようとします。カルシファーの火が燃え盛り、あわや焼身してしまうところ、ソフィーは水をかけて荒地の魔女を救います。〝カルシファーの消滅=ハウルの死〟を心配して嘆くソフィー。
ハウルに会いたいと願うソフィーを、指輪が導いた先は〝幼少のハウルが星の子と契約を交わすまさにその瞬間〟でした。
「ハウル!カルシファー!私はソフィー、未来で待ってて!」と叫んだソフィーを、幼少のハウルは確かにその目で見ます。このことから、ハウルはずっと昔からソフィーの存在を認識していることになります。
少し前のシーンに戻ります。ハウル一行が引越しをした際、城の扉とハウルが幼少期を過ごした土地が繋がりました。ソフィーは初めてその土地を訪れるはずですが、〝不思議ね、前にもここに来た気がする〟と感じます。
ハウルとカルシファーが契約を結んだとき、自分もそこに居合わせていた記憶が薄っすらと蘇ったのです。
ここは時空を超えた展開で時間軸が一方向ではなく、特にややこしい部分だと思います。
●冒頭の出会いは偶然ではない(かも)
ソフィーとハウルの出会いのシーン。ハウルはガタイのいい兵士たちのナンパからソフィーを救います。このとき、ハウルの指輪は光っているようにみえます。
この物語で指輪は会いたい人のありかを示す道標となり、その力を発揮するとき光ります。
前述したようにハウルは幼少期からソフィーを認識している点も踏まえると、ハウルが登場の第一声「やぁやぁ、探したよ。」と言ったのは、単にナンパを撒くための口実ではなく、本当に探していて〝やっと見つけた〟という意味だったのかもしれません。(指輪の光り方も薄っすらなので、真意はわかりませんが…)
●終わりに
この映画はとにかく言葉足らず。私自身、一度目の鑑賞は後半の内容が全く入ってこなかった。
それでも、なぜか楽しい。細かいことがわからなくてもキャラクターやお城の描き方に心を鷲掴みにされる。
繰り返し観れば、その度に散りばめられた粋な仕掛けに心ときめく。
やっぱ宮崎駿だなって、何度でも思わされる作品。大ファンです!
深く考えてもよし、なんとなく見てもよしの傑作ですね。
キャラクター、いいですよね!
私は犬のヒンが一番好きです。笑
こちらこそ、コメントまでくださって嬉しいです。
解説ありがとうございます。
本作を今見終わってすぐ読みました。
何度かハウル見たことあったんですが、
なるほどなるほど目からウロコでした。
先駆け「君の名は」ですね笑
もう一度見ます、大好きな作品です。