不都合な真実 : 映画評論・批評
2007年1月23日更新
2007年1月20日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほかにてロードショー
ゴアのカリスマによりエンタテインメント映画として成立
アメリカのドキュメンタリー史上、記録的な大ヒットとなった「不都合な真実」。地球温暖化問題について描いたエコ・ドキュメンタリーがなぜこれほど多くの観客を惹きつけたのか。地球に危機感を抱いている人が多かったからではない。この映画のメインホストがどこぞの博士ではなく、アル・ゴア元副大統領だったからである。環境問題について話すエネルギッシュな語り口は説得力に満ち、話は面白くてわかりやすく、そのカリスマ性は人々を惹きつけてやまない。アメリカの政治家のエンタテイナーぶりたるや、ハリウッド・スターの比ではないのだ。政治こそがアメリカ最大のショーというのも頷ける。
また、ゴアが大統領選でブッシュと接戦の末、不明瞭な負け方をしてしまった人物というのもこの作品では大きなポイントである。なぜなら00年の大統領選で「企業利益よりも環境問題を重要視しているようなゴアに国を任せていいのか」と笑い飛ばしていたブッシュが作った7年後の世界は、利益優先のため京都議定書の批准を拒否して環境を破壊し続け、戦争を泥沼化させている反平和的な社会なのだ。もしあの時ゴアが大統領になっていたら──と匂わせることで、事実を追うのが基本のエコ映画にエンタテインメント性を持たせた。しかし反ブッシュを追求すると面白味は出ても、環境問題を利用したゴアの政治戦略映画のように映ってしまう危険性も伴うため、チクリとしただけに止めたのは利口である。
かくしてこの作品は、マイケル・ムーアに代表されるような最近のエンタテインメント性溢れる撮り方ではなく、ごくごくフツーにゴアの講演旅行を追ったシンプルな作りのドキュメンタリーであるにも関わらず、誰が見ても楽しめるスター主演のエンタテインメント映画として成立。製作陣はもちろん、ハリウッド映画界の面々である。
(木村満里子)