劇場公開日 2004年10月16日

「『エクソシスト ビギニング』と『ドミニオン』の比較と内部事情」エクソシスト ビギニング 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)

2.5『エクソシスト ビギニング』と『ドミニオン』の比較と内部事情

2023年7月27日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

1)同じ脚本の違う映画が出来た内幕
Netflixでたまたま『エクソシスト ビギニング』(2004年/レニー・ハーリン監督)と『ドミニオン』(2005年/ポール・シュレイダー監督)が2本とも配信されていたので、連続して観た。

ともに『エクソシスト』のメリン神父がエクソシズムに取り組む契機となった事件を描いたもので、舞台は1940年代のアフリカ東部。脚本は細かいところでいくつか相違点があるものの、大枠は同じ。出演俳優はメリン役ステラン・スカルスガルドと英国軍少佐ジュリアン・ワダム以外、ほとんど異なっているようだ。

いったい何故、同じ脚本の違う映画が連続で作られたのだろうか。
当初、『エクソシスト4』として企画された作品は、『タクシー・ドライバー』『レイジング・ブル』の脚本家シュレイダーが監督となり撮影された(『ドミニオン』)。
しかし、モーガンクリークとワーナーブラザースは、シュレイダーの作った映画がまったく気に入らなかった。wikiには「恐怖と流血の欠如のために広く嘲笑された」とある。

結局、シュレイダーはクビになり、新たに『ダイ・ハード2』のハーリン監督が映画のほぼ全体を再撮影するために雇われて、出来上ったのが『エクソシスト ビギニング』である。

しかし、いざ両作品とも公開されてみたら、揃って批評家からも映画ファンからも見放されるという悲惨な運命をたどるのであったw

2)2作品揃って芳しくない評価・興行収入
さて、公開された『ビギニング』の評価はどうなったか。
「映画は新たに雇われたレニー・ハーリンによって全面的に作り直されたものの、悲惨なほど否定的なレビューと恥ずかしい興行収入をもたらし、第25回ゴールデンラズベリー賞の最低監督賞と最低リメイク及び続編賞にノミネートされた」(wiki要約)

この不評を受けて、製作者サイドは出資分を取り返すべく『ドミニオン』を完成させ、公開する。
「ワーナーブラザースはシュレイダー・バージョンの映画を限定劇場公開することにした。批評家はハーリン・バージョンよりもはるかにシュレイダー・バージョンに好意的だったが、一般的には不評だった」(同じくwiki要約)
映画評の一つには「欠けているのは血や殺傷ではなく組合せである。『ドミニオン』は怖がらせるにはあまりに礼儀正しく都会的すぎるのだ」とある。

3)2作品のどちらがいいか?
まず、『ビギニング』は恐ろしげなシーンが頻出するものの、それらが徐々に悪魔に収斂されて恐怖を深めていくのではないから、何だか当てが外れた感じ、コケ脅しに見えてしまう。最後にはアフリカの部族vs.英国軍の戦闘と悪魔vs.メリンの対決を二重写しに描くことで、限りなくアクション映画と化してしまう。ただ、落ち着いて深みのある映像は捨てがたい。

次に、『ドミニオン』は前半部分ではホラー風味を抑制しながら、ナチスにより自分が悪の手先とされ、信仰を失ったメリンの人格形成をきちんと描いた後、後半には人間性の悪と悪魔のもたらす悪の重なる怖さが打ち出されていて、こちらの方が正統派wに近いだろう。しかしながら映像が薄っぺらで、TVドラマのようなチープさを感じてしまう。

どちらかを選べというなら、抑制された恐怖の効果的な『ドミニオン』の辛勝といったところか。『ビギニング』の映像で『ドミニオン』を撮っていたら傑作になっていたかもしれない。
『エクソシスト』シリーズが好きな人は話のタネに両方ともご覧ください。

徒然草枕