「妥協のないハードSFホラードラマ」ザ・フライ Jinketaさんの映画レビュー(感想・評価)
妥協のないハードSFホラードラマ
今回で3回見たことになる。
この映画には、妥協がないとツクヅク再確認しながら、、又心から楽しんでしまった。
・ストーリーに妥協がない。
SFものは大概、いい加減論理の飛躍が有る映画が多く、ゲンナリさせられるが、
この映画の妥協のない緻密なストーリーは、何度でも見れる。アイデアも秀逸。
・映像に妥協がない。
グロさは圧倒的である。またそれをじっくりかつ執拗に見せる。
転送後のポッドBが煙ってなかなか見えないのも、唸らせる。
ヒヒの1匹目が、セスの目の前で血まみれの手(または足)をガラス扉に打ち付ける
シーンは、思わずこっちの体もビックと動いてしまう。
変身の過程は言うまでもないでしょう。
・心理描写に妥協がない。
恋人役を妊娠させることで、見ている方も逃れられなくなる。出産の悪夢では、産婦
人科医に同情してしまう。セスのいかにも研究者らしい性格も人格変身の過程も飽き
ない。勿論恋人の苦悩は言うまでもない。
・サウンドに妥協がない。
B級映画が、突然の大音響で驚かす手法とは一線を画す。重厚で落ち着いたサウンド
は、この映画の妥協の無い雰囲気を効果的にバックアップしている。
・キャスティングに妥協がない。
ほぼ3人しか登場人物はいないが、ハマルとはこう言うことを言うのであろう。
・演出に妥協がない。
壮絶な内容にも拘わらず、抑えた演出が光る。遺伝子融合による変身の第一歩は、
セスの驚異的な身体能力の増強であるが、単純に驚くわけでもなく、喜ぶわけでも
なく、寧ろ皮肉なユーモアさえ交えながら淡々と演出されており、実は私が最もこ
の映画を好きなポイントがここにある。コーヒーの大量な砂糖しかり、鏡の前で人間
だったパーツをコレクションするシーンしかり、変身後天井を歩いたりビデオの前で、
ブランドルバエとしての食べ方を寧ろ楽しそうに見せるシーンしかり、引きつった笑い
を誘いながら、同時に恐怖心と不安をいっそう高めるあたり、並の演出ではない。
これらは、クローネンバーグのセンスとしか言いようが無い。
にも拘わらず、この映画には救いがある。恋人の愛、セスの愛、恋人上司の愛、ユーモア、セスの天才性。
不気味にして笑わせ、重苦しい割りに軽く、グロでありながら切ない。
唯一、映画でしか描けない世界が、ザ・フライにはある。