ディボース・ショウ : インタビュー
インディーズ映画の雄、コーエン兄弟が“メジャースタジオの枠にはまるように”作ったという「ディボース・ショウ」。しかし、そもそも監督する予定のなかった本作を撮ったのは何故か? そして、メジャー作品であっても忘れない、彼らの信条とは?(取材・文:渡辺麻紀)
ジョエル&イーサン・コーエン兄弟インタビュー
「僕たちが常に意識しているのはユーモアだよ。それがない映画なんて考えられないからね」
あのコーエン兄弟にしては毒が薄くない? なんて思ってしまうかもしれない「ディボース・ショウ」。が、それには大きなワケがある。
「僕たちが最初にこの仕事を受けたのは、(ロバート・ラムゼイらが書いた)脚本の校正だった。つまり、メジャースタジオ向けの大作として脚本を書き直すことさ。ところが、ジョージ(・クルーニー)がその脚本に興味を示し、『(監督を)やんないのか?』と言う。彼にそう言われてば話は別だ。それに丁度、前の企画『To the White Sea』(ブラッド・ピットが主演する予定だった)がボツったときで、身体も空いていたんだよ」
そう語るのは監督・共同脚本の兄ジョエル・コーエン。つまり「メジャースタジオのワクに入るように作った」のだ。が、だからと言って自分たちの趣味を出さなかったわけではない。
「僕たちがここでやろうとしたのは60年代のコメディなんだ。伝統的なブロード(ギャグ的な)・コメディにしようと思った。というのも僕たちはそのジャンルから多くのことを吸収してきたからなんだ。とりわけブレイク・エドワーズの影響は大きい」(ジョエル)
また共同脚本・製作の弟イーサンも「そう、パジャマ姿の男がオープンカーで走るなんてのはモロ、エドワーズの世界なんだ」
エドワーズと言えば「ピンク・パンサー」シリーズや「ティファニーで朝食を」等を手掛けた往年のハリウッド監督。彼のタッチを意識したのならクルーニー&キャサリン・ゼタ=ジョーンズの濃いカップルも納得出来る。なにせふたりが顔を合わせたことで、非常にハリウッド的な作品になっているからだ。
「僕たちがジョージと組むのは『オー・ブラザー!』に続いて2度目だから、彼のコメディセンスがバツグンなのは承知の上。それこそ、彼以外は考えられないね。ジョージが歯をむき出した笑いをするだろ? あれはケーリー・グラントなんだ。彼の役柄自体、グラント的だしね」(ジョエル)
ちなみに「オー・ブラザー!」では髪形を気にする髭の男。これは「クラーク・ゲイブルを意識してのこと」とジョエル。どうもクルーニーはコーエン兄弟の手にかかると往年の銀幕スターのパロディをやらされる運命のようだ。
「僕たちが常に意識しているのはユーモアだよ。たとえコメディとは言えない作品にだってユーモアを入れる。それがない映画なんて考えられないからね。もうそれは僕たちの気質なんだ」(ジョエル)
しかし、だからと言ってヒットを無視しているわけではない。
「気にしてないと言うのは嘘になる。特にこんなメジャースタジオのスターが出ている大作ならなおさらだよ。しかし、だからといって、そういうことを考えながら映画は作れないんだ。自分たちが何を求め、何を作りたいのか、撮影しているときはそれだけに没頭している」(ジョエル)
その没頭の証が「撮影しているときに、自分たちでも驚いたんだ。『こりゃあ、あまりにエドワーズ風じゃないか!』ってね(笑)」(イーサン)。ちょっとかわいいかも……。