クレールの刺繍のレビュー・感想・評価
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望まない妊娠
赤毛の髪に巻いた青いターバン。透き通るような白い肌。『真珠の耳飾りの少女』のスカーレット・ヨハンソンをも彷彿させる。
望まない妊娠をしてしまった17歳の少女クレール。畑からキャベツを掘り出してウサギの皮と交換し、せっせと趣味の刺繍に没頭する。やがて産婦人科を訪れるが、医者からは“匿名出産”の道を勧められ、働いていたスーパーにも休職願いを提出する。帰省した折、親友リュシルのもとを訪ねるが、リュシルの兄ギョームがバイクの事故で大怪我をしたことを知る。そして同乗していたギョームの友人が亡くなったのだ。その友人の母親を慰めるべく訪問し、そこで刺繍の仕事を始めるのだった・・・
寡黙なまでに刺繍の仕事に精を出し、息子を失った悲しみを面に出さないメリキアン夫人。妊娠について悩んでいた自分がとても些細なことで悩んでると気づき、夫人に負けないくらいの勢いで刺繍に取り組むクレール。しかし、ある日薬を飲んで倒れている夫人を発見する。
一命をとりとめ入院したメリキアン夫人と、見舞いのため通いつめるクレール。二人とも言葉が少ないが、生きる希望をなくした人間と生きる目的を探し求める人間との対比の妙が伝わってくる。また、クレールが夫人に認めてもらいたくて、夫人のやりかけた大作をコツコツと引き継いで刺繍する様子がとても美しいのです。模様のひとつひとつが生命を紡いでいくように、スクリーンいっぱいに躍動感が生まれる瞬間でした。
そして、バイク事故で友人を失ったギョームが外国にて再生を計る生き生きとした姿も加わって、生きることの大切さをさらに訴えてくる。3人がそれぞれ立ち直り、新たなスタートを切るという素晴らしい内容。心が洗われる映画です。残念な点は、弟トマの扱いがぞんざいだったことくらいだろうか・・・
地味
総合:60点
ストーリー: 60
キャスト: 65
演出: 65
ビジュアル: 70
音楽: 65
フランスの秋の田舎の淡い陽光。光の使い方が上手で、それは刺繍をする暗い部屋においても同様。全てがはっきり照らし出されるわけではなく、光と影の中にひたすら刺繍をしていく表情が映し出される。もちろん刺繍の模様の美しさも。学校で孤立し両親ともうまくいかず職場でも助けてくれる人はいない。お腹の子供の父親は妻子持ちで、最初から中絶費用の話しかしない。殆ど助けもいない主人公の孤独と不安が、その情景の中に微妙な心の動きとして描写される。
少し文学的で質の高い映画ではあるのだが、全体として地味。大きな動きはないし、あまり明るい話題がなくて、悪く言えば暗い憂鬱な雰囲気ばかりが漂う。こういうゆっくりとした映画があってもいいが、ちょっと暇を持て余しもした。妊娠して不安を少し感じている人は、特に共感できる作品かもしれません。
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