劇場公開日 2005年9月3日

クレールの刺繍 : 映画評論・批評

2005年9月6日更新

2005年9月3日よりBunkamuraル・シネマほかにてロードショー

台詞ではなく、ひと針ひと針の刺繍に託して

希望を失いかけていた少女の人生が、ある人物との出会いを通して再生する。こう書くと、ありふれた物語に思えるし、地味でもある。しかし、これを「刺繍」というメタファーに絡め、せりふに頼らず、映画ならではの表現力で語りきった監督の技量、その繊細な感性は並みではない。

望まない妊娠をした17歳のクレールと、わが子を事故で亡くした刺繍職人、メリキアン夫人。痛みを抱え、心を開けない2人の女性は、よけいなことは何一つしゃべらない。しかし、映画はそんな2人の心のひだを、じっくりと物語る。ひと針ひと針、静かに淡々と、美しい刺繍に打ち込む姿を通して。

陰影に富んだ美しい映像、沈黙に宿るドラマの奥深さは、「真珠の耳飾りの少女」にも似ている。しかし監督の視点と人物造形が明快なぶん、ここで流れる情感は、スリリングというより温かい。もっともらしい言葉こそないが、2人がお互いに同じ匂いを嗅ぎつけているのがよくわかるからだ。デリカシー、根気強さ、職人としての誇り、美的感覚……。それが2人の心を次第に寄り添わせ、ささやかな喜びへと結実していく過程を見るのは、心地よく楽しいのだ。クレールを演じるローラ・ネマルクは、これから化けそうな逸材だ。

若林ゆり

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