劇場公開日 2006年9月30日

「『冷血』という題名の二重定義」カポーティ スモーキー石井さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0『冷血』という題名の二重定義

2022年5月5日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

本作は『ティファニーで朝食を』の原作者が実際に起こった事件を題材にしたノンフィクションノベル執筆にあたり、とりわけ実行犯のひとりに情が芽生え、「友」としての自分と「商業作家」としての自分の葛藤を描く。

トルーマン自身の悲しい生い立ちや事件に対して「見たいように見たい」大衆に迎合しなければならない自身の立場、『アラバマ物語』で知られる“ネル”ハーパー・リーとの交流などを描く。

本作は小説『冷血』執筆から完成までの過程を描いている訳だが、作品の中で
「冷血」とは誰の事を指すのか?について言及される。
トルーマン自身は大衆受けを狙い、「男性的な」タイトルにしたというが、
この作品はトルーマン自身がもっと深い意味を込めたと私は解釈した。
それは大衆迎合主義の密やかな反抗であり、何もできない、むしろかえって傷つけてしまったかもしれない友人に対する彼なりのある種のけじめのようなものだろう。
それ以来、長編作品を上梓できなくなってしまったことがその何よりの証左だ。

自らを「冷血」な人間だと称すトルーマン・カポーティ。しかし彼は「あたたかい血」が流れている人間だったんだと感じさせる作品だった。

スモーキー石井