バーバー : 映画評論・批評
2002年4月2日更新
2002年4月27日より恵比寿ガーデンシネマ、シャンテ・シネほかにてロードショー
途方もなく美しく、圧倒的に切ない
コーエン兄弟の最新作「バーバー」は、その映像の美しさだけでも観る価値が十分ある。撮影を手がけたのは「バートン・フィンク」以降、すべてのコーエン映画を手がけている、イギリス人撮影監督ロジャー・ディーキンス。20年近くにも及ぶキャリアのなかでも、はじめて挑戦したという白黒映画「バーバー」は、ディーキンスの手腕がむき出しになった大傑作だ。
通常、白黒映画というと粒子が粗く、コントラストが強いものを想像しがちだ。しかし、「バーバー」のモノクロ映像は息を飲むほどソフトで、濃淡のグラデーションが豊かである。これは、数十年も改良が行われていない白黒フィルムではなく、最新のカラーフィルムを使用して撮影したためだという(リリースプリントの段階で白黒に変えている)。色彩表現がなくなったぶん、構図はいつもにもまして冴えわたっている。たとえば、ビリー・ボブ・ソーントン演じる理髪師が、妻のむだ毛を剃るシーンがある。バスルームにいる2人を映したワイドショットでは、ビリー・ボブだけがシルエットになっている。夫婦のあいだの断絶、そして、孤独な男を表現した、シンプルかつ雄弁なショットだ。
ディーキンスのカメラが描いた「バーバー」は途方もなく美しく、圧倒的に切ない。コーエン兄弟の作品のなかで、一番好きかも。
(小西未来)