バガー・ヴァンスの伝説 : 映画評論・批評
2001年3月1日更新
2001年3月3日より日比谷映画ほか全国東宝洋画系にてロードショー
レッドフォード十八番の紳士美学に舌鼓
なぜ、マット・デイモンはアメリカでは人気があるのか? 彼の快進撃に疑問を抱く人も、その理由に納得するのが今作。なるほど、戦場の悲惨さに傷つき、ゴルフでも人生でもグリップを失った天才ゴルファー、ジュナの前に現れるバガー・ヴァンスが中途半端にファンタジックなので、レッドフォード監督作にしては食い足りない。それでも、ここには彼の作品の最大の魅力である叙情が溢れている。そして、その大半を担っているのがマットなのだ。
レッドフォード得意のクラシカルなアメリカの風がそよぐなか、試合を通して人生に向き合うジュナの笑顔の輝きは、「リバー・ラン ズ・スルー・イット」のブラッド・ピット顔負け。顔の造作はまるで違うけれど、ナルなレッドフォードがマットを選んだわけがよくわかる。不思議な笑顔が心に残るウィル・スミスが魅力的でありながら、レッドフォードの世界から浮き気味なのとは対照的に、笑顔に叙情をたたえて、時代の空気に溶け込んでいるのだ。おまけに、十八番の“世をすねた天才”ではなく、栄光に背を向けた天才という新たな地平へと歩を進めてもいる。レッドフォードの紳士(真摯)な美学に酔い、俳優マットの底力に気づく。それが今作の醍醐味よ。
(杉谷伸子)